梅ちゃん、何苦楚(なにくそ)弾や。阪神梅野隆太郎捕手(23)が、1カ月ぶりアーチとなる決勝2号ソロを放った。3回の第1打席に先制弾をバックスクリーン右へ。今季はスタメンを外れる試合も多く苦しんでいるが、バットでも連敗ストップに貢献した。

 ベンチ前で手荒い祝福を受けると、梅野の白い歯が輝いた。バックスクリーン右への特大の先制ソロ。苦しんだ毎日を吹き飛ばす爽快な1発だった。

 「真っすぐを狙っていました。体重が乗っていたので、いったと思いました。チームに勢いがついて良かったです」

 3回表。先頭で打席に立った。カウント2-1からの4球目、狙い通りヤクルト新垣の外角低め145キロ直球を捉えた。手応えはあったがバックスクリーン方向に飛んでいく打球に「距離があるから届くかな」と不安がよぎり、全力疾走でダイヤモンドを回った。4月14日中日戦(ナゴヤドーム)以来の今季2号。先発する岩田をバットでも勝利に導いた。

 伝説の強打者の思いも力になった。この日の試合前、神宮球場に隣接する室内練習場で「打撃の調子はいいんじゃないか」と中西太氏(日刊スポーツ評論家)に声をかけられた。梅野は足を止めてうなずきながら耳を傾けた。「いろいろと言われていると思うけど、何苦楚で頑張れよ。何苦楚って知ってるか?」。間髪を入れずに梅野は「何苦楚魂ですか」と答えた。すると梅野のヘルメットを中西氏が手に取り、裏にある白いクッションに「何苦楚」とペンを走らせた。梅野はうれしそうな表情を浮かべ、打撃練習へと向かった。第1打席で“1発回答”してみせた。

 プロ2年目の今年は正捕手候補として経験を積んでいった。開幕当初はスタメンマスクをかぶる日が続いた。しかしチームが負け込み始めると、梅野のリードへの指摘の声が高まっていった。ベンチスタートが増えていく日々。「打てる捕手」と期待されて入団したが、打率2割前半止まりとバットも静かになっていった。福岡工大城東時代の恩師、東海大五・杉山繁俊監督に相談の電話を入れたこともあった。「リードに大切なのは呼吸なんですかね?」。信頼される捕手とは…。解決への糸口を探っていた。

 なにくそ-。歯を食いしばって野球と向き合った23歳の表情は晴れ渡っていた。【宮崎えり子】

 ◆何苦楚(なにくそ) 中西太氏の義父で西鉄や大洋監督などを務め、4度の日本一などで名将とうたわれた三原脩氏の「何苦楚 日々新也(なにくそ ひびあらたなり)」の言葉が源。何ごとも苦しむことが礎(いしずえ)になるとの意味で、中西氏が座右の銘としている。ヤクルト時代の教え子の岩村明憲(BC福島兼任監督)は「何苦楚魂」をモットーにしている。