ソフトバンク柳田悠岐外野手(26)はここがすごい! 今季パ・リーグで打率3割、30本塁打、30盗塁の「トリプルスリー」を達成した柳田を、バイオメカニクスによるアスリートサポートの専門家、鹿屋体育大の前田明教授(50)が分析。生物力学的な視点から、パワーと確実性を兼ね備えたフルスイングの打撃とスピードあふれる走塁を可能にした肉体を解析する。

<本塁打:34本>

 柳田のフルスイングをひと目見れば、誰もが驚く。今季30本以上の本塁打をマークしたが、ただ強く振ったから達成できた数字ではない。打撃フォームの連続写真をもとに動作解析した鹿屋体育大の前田教授によると、肉体的な特徴がその豪快なスイングを可能にしているという。

 前田教授 (写真<2>)でいわゆるタメを作っていますが、このとき右膝を内側に入れながら前に出してます(同<3>)~(同<4>)。内にひねったまま踏み込んだ右足を力強く踏み込んで(同<5>)前方への体重移動をいったんストップさせる(同<6>)と、その後、一気に骨盤から回してスイングしています。これは、よほどの下半身の強さがないとできません。右足の外側広筋や大腿(だいたい)直筋など大腿四頭筋が強いことがこのスイングを可能にしています。

 柳田は広島商で70キロもなかった体重が広島経大時代に元阪神の金本知憲氏らが通うジムで筋力トレーニングを行い、プロ入りした11年は89キロになっていた。

 前田教授 高度な筋力トレーニングでないとこの筋力は実現しません。投手の動作解析では、踏み出した足(右投手なら左足)が地面についたときの強さが球速の速さにつながる研究結果が出ています。柳田選手も踏み出した右足の踏み込む力が強いはずです。インパクトの瞬間(同<7>)その右足ですべてを支えています。前に流れることなく、早く開くことなく右足を強く踏み込むことで、スイングの速さを生み、そのパワーを球に伝えています。

 柳田特有の豪快なフォロースルーについては独自な理論を展開する。

 前田教授 インパクトまでのスイングが飛び抜けて速いため、インパクト後にバットが止まらないだけで、柳田選手も止めようとしていないはずです。フォロースルーの大きさは打球の強さに関係ありません。通常なら、アマチュア野球界では、このスイングは「ご法度」のはずで、自由にさせてもらっていたから、今があるのかもしれませんね。

 どうしても豪快なスイングに目がいくが、フルスイングの生命線は右足を中心とした下半身の強さだった。

<打率:3割6分3厘>

 豪快なフルスイングながら打率3割6分3厘をマークし、首位打者に輝いた。パワーと確実性という一見、矛盾するものを両立した裏には、柳田の視力の良さがあると前田教授は推測する。「インパクトまでは頭も動かず、目も動かない」ことを特徴に挙げながら「動体視力が優れている」という。

 「動体視力にはいろんな種類があるが、打撃に一番直結するものとしてKVA視力というのがある。遠くの方から自分の方に迫ってくる物体を瞬時に見極められる能力のことで、卓球のトップ選手、福原愛選手も高い能力をもっています。球種、コースをいち早く認識することで対応力をアップさせていることが推測できます」。打撃に必要な資質を持つ上に、自分のスイングを確立させていったことで確実性をアップし、高打率につながった。

<盗塁:32>

 前田教授は188センチ、92キロの大柄な体でのスピードあふれる走塁は、股関節の筋肉が強くないと実現できないとする。「例えば陸上短距離の世界トップ、ボルト選手(196センチ、94キロ)のように、股関節の筋肉である大殿筋や腸腰筋が強いはずです。大柄なアスリートはここが強くないとスピードがでません」。巨体を動かすパワーの大きさを表すものとして体重当たりの最大無酸素パワー(負荷が重くなっていく自転車エルゴメーターを10秒以内で全力で漕ぐ)の値があるが、それもプロ野球選手でも並み外れていると予測する。「値としてはラグビーのプロップや、陸上の投てき選手同様ではないかと思います」。アスリート全体としてもトップクラスとなる下半身の強靱(きょうじん)さが柳田のスピードを支えている。

 ◆前田明(まえだ・あきら)1988年(昭63)3月、鹿屋体育大体育学部を卒業。バイオメカニクス研究が専門で06年に同大体育学部の教授に。国立スポーツ科学センターの研究員も歴任。研究分野は野球の動作に加え、着地衝撃、動体視力、トレーニングなど。過去、元ソフトバンク和田(現カブス)の投球や、ソフトバンク3軍の投手などの解析も経験。現在、鹿屋体育大野球部の顧問。