日刊スポーツ新聞社はアプリコット株式会社とチームを結成し、巨人が催したイベント「ジャイアンツハッカソン」に参加した。野球とファンをつなぐ、新たな枠組みを開発するITコンペ。作業開始から32時間が経過し、いよいよプレゼン&審査が始まった。(敬称略)

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 作業2日目の午後5時。照明が落とされ、最初のプレゼンが始まった。1番打者は「面白法人カヤック」という東証マザーズに上場する企業。「データをクールに見せる」と、光る9分割の配球表付きトートバッグを出してきた。前日の中間発表では「配球体感型Tシャツ」だったが、変えてきた。なぜ、トートバッグなのか。よく分からないが、とんがっている感じはビンビン伝わってくる。

 2番手は、渋谷の共同作業場で知り合った人で構成するチームだ。チーム結成の理由を聞いただけで新しい匂いがする。「選手とLINE(ライン)ができる」というアプリを提案した。3番手はjenaというIT企業。手を振るとパラメーターが上がるという、応援用リストバンドを制作してきた。4番手は、スマホをたたいたり、配球予測が的中するとコインがたまるというアプリ。5番手は、次のプレーを予測するゲームができる野球盤だ。球場で貸し出し、知人同士で競い合うという。

 どれも面白そう。スマホの画面から飛び出し、実際に触ったり、動かせたりする点が、ひと工夫を感じさせる。ハッカソンを制するコツなのだろうか。普段、野球を見ている時とは違った部分の脳が刺激された、気がする。日刊スポーツの順番は10番目。徐々に緊張が高まってきた。

 採点基準は(1)アイデア(ユニークさ、斬新さ)が40%(2)ビジネスモデルの完成度が25%(3)実装の完成度が20%(4)プレゼンテーションが15%の配分だ。前日深夜のひらめき(第3回参照)があり(1)と(2)には自信がある。(3)は、アプリコット社長の塩月研策(41)ら精鋭3人が、過去5年分におよぶ日刊スポーツの巨人関連記事を流し込んだデータベース、東京ドーム近辺でリアルタイムに営業している店舗検索機能などを構築してくれた。問題は(4)。これから始まる、質疑応答の2分間を含めた7分間。IT業界の最先端をいく猛者を前に、アラフォーのIT音痴記者2人で、この難関を切り抜けられるのか。

 私たちの制作物は「美女コンシェルジュbot(※1)」というアプリだ。日刊スポーツの蓄積記事やデータを入れ込み、テレビを含む野球観戦で役に立つうんちくや選手情報を紹介。さらにチケットの売買の仲介、ビールの注文、座席から近いトイレの推薦、近隣の居酒屋検索などが会話形式やLINEのスタンプでできる。記者の宮下敬至がアプリの概要を読み上げると同時に、塩月がパワーポイントを操作。ここまでで3分、残り2分。実際にアプリを使ったデモを始めようとした、その時だった。

 アプリが動かない…。

 冷や汗が出る。約20秒だったが、異様に長く感じた。どうにか通信状況が復活し、残り1分30秒で阿部、実松についてのうんちく、居酒屋などを紹介した。会場からの声は感触がいい。次は2分間の審査員との質疑に移った。私の担当なのだが、幸運に見舞われた。実は概要説明をする際、時間を短くするため(2)のビジネスモデルの説明を若干端折ったのだが、その部分を聞かれたのだ。説明不足をうまく補えた。

 午後7時、運命の結果発表を迎えた。参加13組から5組に絞られる。スクリーンの上から5番目に日刊スポーツの名前が表示された。これまで冷静だったエンジニア関本佳彦(36)デザイナー渡部良隆(28)も、さすがに喜びを隠せなかった。(つづく)【斎藤直樹】

 ◆ハッカソン 「Hack(ハック)」と「Marathon(マラソン)」をあわせた造語。短期、集中的な共同作業でソフトウエアを開発する技術とアイデアを競い合うイベント。

 【注】※1 botはロボットが語源。人間に代わって自動化プログラム作業を行う。IT業界で注目されている。