主将の気迫が劇勝を呼んだ! 阪神が「日本生命セ・パ交流戦」西武戦の延長10回、1死満塁から原口文仁捕手(25)の左前適時打でサヨナラ勝ちを収めた。ヒーローは原口に譲ったものの、右手中指の負傷が判明した福留孝介外野手(40)の姿がチームを鼓舞。10回の好機は、福留のセーフティーバントの激走がお膳立てしたもの(結果は犠打)。初回には先制打を放った。この日の勝利で、金本知憲監督(49)は監督通算100勝目に到達。チームは西武3連戦に勝ち越し、今季交流戦の負け越しがなくなった。

 甲子園がどよめいた。延長10回。先頭高山が四球で出塁すると、打席に立った福留が仕掛けた。西武シュリッターの初球をセーフティーバント。全力で一塁を駆け抜けた。結果はわずかにアウト。バント安打とならなかったが、自身2年ぶりの犠打が試合を動かす。勝ちにこだわる姿勢が、チームに火をつけた。

 続く中谷がこの試合5安打目となる右前打で一、三塁とすると、鳥谷が敬遠で満塁。最後は原口がレフト前に落として歓喜のシャワーを浴びた。今季3度目のサヨナラ勝利を呼び込んだのは、4番の気迫と勇気、そして経験に裏打ちされた勝負勘だ。

 就任2年目の金本監督にとっては監督通算100勝目。記念星を劇的な勝利でつかんだ指揮官も「やるかなと思った。それか、狙って一、二塁間にボテッと打つのか。しかし、うまいね」と、感嘆したほど。あの場面で、あのタイミング。福留にしか出来ない価値ある「犠打」だった。

 先制点も主砲のバットからだった。1回、2死二塁の場面。先発十亀の内角145キロの直球を詰まりながらも右前に落とすタイムリー。「先制のチャンスの打席でしたし、つなぐことを考えて打ちにいきました」。一塁ベース上では中村外野守備走塁コーチと強めのグータッチ。自身6試合ぶりの適時打。その表情はまさに鬼気迫る鬼のようだった。

 決死の覚悟だ。前日14日に右手中指を負傷していることが判明した。6月の月間打率はこの試合が始まるまで1割1分4厘。絶不調の原因の1つがバットを握る指にあった。それでも「シーズンに入れば誰にだってあること」と、多くを語らない。負傷で糸井のスタメンがかなわないチーム状況の中、選手生命をかけて打席に立つ。年齢は40歳。決して大げさではない。

 西武3連戦に勝ち越し、交流戦9勝6敗。交流戦の負け越しがなくなった。大興奮のヒーローインタビューが行われるなか、ベンチから出てきた福留は「俺は関係ない。あの2人(お立ち台に上がった原口、中谷)に聞いて」。そう言い残して足早にクラブハウスへと消えた。今日16日からはパ・リーグ首位の楽天との3連戦だ。この男がいれば大丈夫。誰もがそう思ったはずだ。【桝井聡】

 ▼福留の犠打は、15年8月14日ヤクルト戦5回無死二塁で秋吉から投前に決めて以来、阪神移籍後5度目。福留が犠打を成功させたこの5試合で、チームは全勝。

 ▼阪神はかろうじて交流戦1位の可能性を残した。残り3試合で(1)阪神3連勝(2)ソフトバンクが広島戦で2勝1敗(3)西武が中日戦で2勝1敗以下のとき。阪神、広島、ソフトバンクが12勝6敗の勝率6割6分7厘で並び、規定により交流戦18試合のTQB(得点÷攻撃イニング)-(失点÷守備イニング)が大きいチームが上位となるため。また、オリックスも3連勝すれば、同様の理由で1位の可能性を残す。