これが新井だ! 広島新井貴浩内野手(40)がヤクルト12回戦(神宮)で、土壇場の9回2死一、三塁に代打逆転決勝3ランをぶっ放した。カウント2-1から甘く来た外角直球を見逃さなかった。無安打に終わった4番の鈴木誠也外野手(22)に生きざまを見せつけた。チームは9回に6得点。最大6点のビハインドをひっくり返した。

 左足で足場を3度、掘った。あごを引き、新井はゆっくりバットを構える。わずかに動きながらとるタイミングには風格が漂う。「コンパクトに、速い球からと思っていた」。踏み込み、ため込んだパワーをぶつけた。「手応えはよかった。多分行ってくれるだろうと思った」。打球はバックスクリーンに直撃した。代打逆転3ラン。両手を上げたナインが、たまらずベンチから飛びだしてきた。

 ミラクルはチーム全員で導いた。9回攻撃開始時点では5点ビハインド。マウンドにはヤクルトの新守護神小川が立っていた。だが「誰一人として諦めていなかった」と新井。先頭のバティスタが左中間席へ特大のソロを放つと、1死からは菊池が左翼席へソロ。丸が四球で歩き、2死一塁から松山が左翼へ適時二塁打。西川も内野安打で続いた。

 神宮の左半分は立ちっぱなし。松山の打席からベンチ奥でヘルメットをかぶっていた新井には「正直、回ってくるんじゃないかなと思っていました」と予感があった。「しっかりした準備が出来ていた」。2点を追う2死一、三塁。集中力がピークの状態で打席に向かった。ベンチも一塁走者の西川に代えて野間を起用。小川のモーションが大きくても、あえて走らせず、新井をアシストした。

 開幕は4番に座ったが、今は鈴木にその座を譲った。ベンチにいると、新井はこっそりと温かい視線を鈴木に向ける。「1本でも打っておけよ、とか。心配になるよ」。ただ積極的に声を掛けることはしない。「苦しいとき、勝てないときは来る。でも自分で乗り越えるしかない。まだまだこれから」。大敗ムードのこの試合で鈴木は無安打だった。大きな背中は、チームにまた白星を運んできた。【池本泰尚】