倉敷から奇跡を起こすぞ! 阪神上本博紀内野手(31)が2年ぶり4安打の大活躍で14安打10得点の大勝を導いた。3回に勝ち越しの5号ソロを放つと、4回&5回にも中押しタイムリーで計3打点。普段はつなぎの2番が決め役に回り、チームは3年ぶりの前半2位ターンを決めた。広島が敗れたため、ゲーム差は1つ縮めて8。阪神が数々のドラマを生んできた好相性の倉敷から、大逆転の扉をこじ開けにいく。

 花火職人が準備を進めていたころ、ひと足先に上本が打ち上げた。同点の3回1死。ジョーダンから5球ファウルで粘り、フルカウントからの11球目だ。内角低め148キロを夜空にすくい上げ、今季5号は勝ち越しソロに変身した。「塁に出ようと思って来た球に食らいついたら、たまたまホームランになりました」。5回裏に予定されていた花火大会を待つことなく、虎党をお祭り騒ぎに誘った。

 倉敷は11年にプロ初アーチを懸けた舞台でもある。広島・福山市生まれだけに「実家が近いこともあって、なんかいいことがあるのかなと思います」と照れ笑いだ。4回は右前適時打、5回には左中間適時二塁打も決め、4打数4安打3打点。14安打10得点の快勝に「(自身は)ちょっとできすぎですけど…。僕だけじゃなく、チーム全員がつなぐ気持ちでいった結果が、こういう結果になったと思います」と謙遜した。

 阪神ひと筋9年目。打てば神様、エラーすれば地獄。想像を絶するプレッシャーの中、何度となくうなされる夜もあった。

 「バッチ、来~い!」

 深夜、突然ベッドから跳び起き、グラブを構えようとしたこともある。「夢だったのかってね…」。それでも重圧から逃げなかったから、今がある。

 「自分は恵まれていると思うので」

 早大時代、練習休日を利用した派遣バイトで、パン工場のライン作業に苦しんだという。「肉まんの先っぽを数時間、永遠にねじり続けるんです」。働くことのしんどさは知っている。野球を職業にできる喜びを忘れず、日々ボールと向き合っている。

 この日は6回表の守備からベンチに退いた。三塁打が出ればサイクル安打、という流れでの交代。金本監督は「今日は暑かったし、上本は体力ないのでね(笑い)。明日、少しでもいい体調で万全でいってほしいので代えました」と説明した。球宴が明ければ西岡、ロジャースが続々1軍に姿を見せるが、上本の存在感は今チーム屈指だ。

 好相性を誇る倉敷で大勝し、前半戦2位ターンが決定。球宴突入まで残り1試合となり、指揮官は「前半戦最後、しかも甲子園。いい形で勝って前半戦を終えたい」と力を込めた。絶好調の2番打者に率いられ、虎は今日12日も力勝ちを狙う。【佐井陽介】

<倉敷いいことメモ>

 ▼ノーノー達成 98年5月26日の中日戦で川尻が史上66人目(77回目)のノーヒットノーランを達成した。阪神では92年の湯舟以来となる快挙。打者29人に内野ゴロ16、三振はわずか1個という内容だった。

 ▼マジック点灯 03年7月8日、星野監督(当時)の地元で広島戦に勝ち、マジックナンバー49を点灯させた。7月8日の点灯は2リーグ制後では2番目のスピード記録。この勢いをもって、85年以来のリーグ優勝へ突き進んだ。

 ▼好データぞろい 95年に開場した倉敷マスカット球場での阪神の通算成績は、09年から14年にかけて6連勝するなど、この日で24勝14敗1分の勝率6割3分2厘。打線も活発で、2桁安打が16度目、1試合平均8・9安打、4・21点をマーク。本塁打も31本放っている。個人では鳥谷が通算3割6分7厘のほか、上本は17打数10安打、2本塁打5打点の打率5割8分8厘と爆発的に打っている。