阪神岩田稔投手(33)が、メッセンジャーの「今季絶望ショック」を振り払う快投で虎を勇気づけた。前日10日の巨人戦で阿部のライナーを受けた助っ人は「右足の腓骨(ひこつ)骨折」と診断されて11日、出場選手登録を抹消された。全治は公表されなかったが、今季絶望とみられる。11勝を挙げた大黒柱を欠き、沈みかけたチームを7回3安打1失点の投球で救ったのが岩田。3位DeNAに勝ち、首位広島とのゲーム差は7・5に縮まった。

 苦境を救ったのは、顔面が黒く「鳴尾浜焼け」した33歳岩田だった。「力まないように、が課題」と言いながら、熱かった。「攻めていこう!」。捕手坂本との約束を守り、140キロ台中盤の強い真っすぐで内角を突いた。2回2死一、三塁の打席では5球連続ファウルで粘りもした。直球とスライダーを軸に7回を3安打1失点で今季2勝目。前半戦を2軍鳴尾浜球場で過ごした左腕が「メッセンジャーショック」を吹き飛ばした。

 この日、メッセンジャーの骨折が発表された。ナインに衝撃が走る中、助っ人右腕は大阪に帰る前、宿舎ミーティングでV奪回に懸ける思いをナインに託したという。金本監督は試合前、「周りがしっかりと自覚を持って、やってほしい」と願っていた。岩田は「ランディも来てくれたんでね」と気合十分だった。

 今季3試合目は先発。1回1死一、二塁のピンチでは4番ロペス、5番宮崎を直球系で凡退させる。3回まで無安打投球の安定感。試合後は「ランディが戻ってくるような試合(ポストシーズン)まで行けるように、チーム全体で一致団結して頑張っていきたい」と力を込めた。

 岩田は1型糖尿病患者の1人。1日4度のインスリン注射が欠かせず、今も試行錯誤の日々が続く。今季初登板初先発した7月27日DeNA戦は5回2失点で白星を手にした一方で、降板時にはフラフラだった。健常者なら食後で100~120といわれる血糖値が400近くまで上がっていたのだ。「緊張してアドレナリンが出すぎてな」。高血糖を防ぐためにも、熱くなりすぎは禁物。そう分かっているのに、岩田はこの日、熱く腕を振っていた。

 金本監督は試合後、そんな左腕を絶賛した。「今、特に先発陣がこういう時こそ、オレが絶対に穴を埋めるというハートを持ってほしい。今日の岩田にはそういうものを感じた」。大黒柱離脱を受け、次回は中5日で17日広島戦に向かう可能性が高い。首位広島とは7・5ゲーム差。投手陣の誰もが、フル回転は望むところだ。【佐井陽介】