復活を印象づけた78球だった。日本ハム大谷翔平投手(23)が、楽天21回戦(札幌ドーム)で5回2/3を1安打無失点に抑え、今季初勝利を挙げた。80球の球数制限の中で、最速163キロをマーク。球団から今季終了後の大リーグ移籍を容認されており、メジャー16球団32人の編成担当が見守る中、順調な回復ぶりを見せた。今季初のお立ち台にも上がり、“二刀流”へ大きく前進した。

 今季初のお立ち台で、大谷は本拠地のファンにざんげした。「こんなに遅れて申し訳なかったという思いです。いいピッチングが見せられたのがよかったです」。今季123試合目。9月中旬になってしまったヒーローインタビューで率直な心境を口にした。

 二刀流の完全復活間近を感じさせた。2回1死一、二塁。茂木への3球目に163キロをマークした。ボール球でも、今季最速球に球場がどよめいた。4球目のフォークで投ゴロに仕留めると、続く聖沢も161キロで詰まらせて遊ゴロに退けた。「投げ心地はよかった。そのおかげで球速も出ていた」と試合を支配した。

 球数制限80球の中で、5回まで71球で無失点。前回8月31日の登板で崩れた4回からはテンポ良く打たせて取り、許した走者は5回の四球の1人だけだった。6回は「あと2人行って、ポンポンいけたら3人だった」。藤田、銀次を抑えたが、この時点で78球。栗山監督は迷わずベンチを飛び出した。

 試合後は冷静に、現状を振り返った。「妥協した段階では、納得できますけど。『ピッチング』とは、ほど遠い」と、打者との駆け引きの部分などは課題とする。一方で、無失点に抑え切れたことは「段階を踏んでいるかなと思う」。少ない球数の中で長い回を投げきるために、制球は「アバウトに投げる」ことも意識していた。さまざまな制約の中で、勝利に貢献したことが収穫の1つだ。

 結果次第ではクライマックスシリーズ(CS)進出の可能性が完全消滅する危機で意地を見せた。球数は前回の64球から増え、打者との対戦感覚も戻ってきた。栗山監督も「前に進んだところもあるし、まだまだ課題もある。勝ちが付いたことより、ゼロに抑えたことに意味がある」と評した。次回登板は球数制限も110球程度に上がる見込み。登板間隔も今回の中11日から縮まる可能性が高い。残り20試合。「楽しみに球場に来る人に1試合でも多く勝ちを見せられるように。そこがモチベーション」。二刀流の本領は、もっと高いところにある。【木下大輔】

 ▼大谷が今季初勝利でプロ通算40勝目。現在、大谷の通算本塁打は47本。通算40勝と通算40本塁打の両方を記録したのは、野口明(中日=49勝、61本塁打)西沢道夫(中日=60勝、212本塁打)関根潤三(巨人=65勝、59本塁打)に次いで史上4人目。