ドラ1、家を買う。巨人ドラフト1位の中大・鍬原拓也投手(21)が15日、東京都内のホテルで仮契約を結んだ。契約金1億円、年俸1500万円、出来高払い5000万円(いずれも推定)。母佐代子さんに女手一つで育てられた最速152キロ右腕は、かつて、奈良県内の家賃4000円の市営住宅で暮らした苦労人。母に家をプレゼントする夢と、母子家庭の子どもたちへの社会貢献活動を実現させたい思いを語った。

 

 緊張気味だった鍬原の表情が、一気に優しくなった。交渉の席では契約金、年俸で最高評価を提示された模様で「これがドラフト1位か」と、居並ぶ数字の「0」に驚いた。当然、交渉後の記者会見で使い道の話題に及んだ。ふと、母佐代子さんが頭に浮かんだ。「小さいころは家や車を買ってあげると言っていたので、買ってあげたいのはあります」と、ほほ笑んだ。

 幼少期に両親が離婚。妹と3人で暮らしたのは、奈良県内の家賃4000円の市営住宅だった。6畳が2間に、12畳の倉庫を部屋に改修した“3K”の間取り。川の字になって眠った。自然と「我慢をさせて野球をやらせてもらったので親孝行したい」が将来の夢になった。最速152キロの直球に「クワボール」といわれる宝刀シンカーを身につけ、名門巨人のドラフト1位選手に成長。「一軒家よりもマンションの方がいいかなと思います」と、夢がかなって家族で喜び合う瞬間を思い描いた。

 鍬原の優しさは、同じ境遇にいる子どもたちにも向けられた。少年時代に小遣いをもらったことも、プロ野球を見に行ったこともない。「(母子家庭は)小さい子たちが野球をやりたくてもできないというのは自分も分かる。球場に行きたいと思う子たちにも来てもらえるように」と社会貢献活動への意欲も口にした。

 プロでの目標は、50歳まで現役だった元中日の山本昌氏のような息の長い選手だ。「ここからがスタートライン。まだまだできる部分はあると思うので、自分なりに親に恩返しできればと思う。新人王のタイトルを取りたい」。夢の続きが幕を開けた。【浜本卓也】