いやあ、ホンマ、ホッとしました。阪神鳥谷敬内野手(36)が2戦ぶりにスタメン復帰し、今季初の猛打賞をマークしました。金本監督が「本人よりも僕らの方がホッとしている」と胸をなでおろすのも無理はありません。4日DeNA戦以来、18打席ぶりの安打でした。オープン戦から不振を極めていたが、ようやく浮上の兆しを見せました。

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 クールな鳥谷が珍しく感情をあらわにした。不安、迷い、ふがいなさ…。胸中に渦巻く負の感情を吹き飛ばす一撃だ。3点リードの7回2死一、三塁。下手投げの山中に2球で追い込まれたが、2度、ファウルで粘る。7球目だ。浮いたスライダーを完璧に仕留めるとライナーで中前へ。加点適時打を見届けると手をたたいて喜んだ。めったにない立ち居振る舞いだった。

 今季初の猛打賞をマークし、引き揚げる足取りも軽い。「何とか塁に出たいと思っていたので、いい形で行けた。ヒットなので感覚は悪くない。これを続けていきたい」。金本監督も胸をなでおろした。チーム今季最多8得点、同最多タイ13安打の猛攻の中で、うれしかったシーンを問われ「3人、挙げさせてもらうと、やっぱり鳥谷」と、ロサリオや大山の前に真っ先に名前を出した。「本人よりも多分、僕らの方がホッとしている。彼も気分、吹っ切れた部分もあったんじゃないのかな」と言葉を継いだ。

 異常事態だった。昨季、2000安打に達した名球会打者が試合前まで27打数3安打。打率は1割1分1厘まで落ち込んでいた。指揮官も12日広島戦後に「リズム、タイミング、バランス、すべてちょっと今は悪い。乱れているというか、整っていない」と指摘していた。翌13日の試合前練習は平野打撃コーチと身ぶり手ぶりで打撃をチェック。首をかしげるしぐさを見せるなど試行錯誤していた。

 それでも春先から続く異変にも目を背けなかった。6日からの中日3連戦はスタメン機会なし。試合前練習が始まる前、まだ人もまばらな京セラドーム大阪に姿を見せ、黙々と体を動かした。打率6分7厘と低調だったオープン戦期間中も甲子園で出番を終えると、室内練習場で打ち込んだ。

 ひたむきさが窮地での原動力だ。1回から振りが違った。由規が投げた膝元へのスライダーをすくい上げると右中間へ。フェンス直撃の二塁打になった。4日DeNA戦(横浜)以来、実に18打席ぶりの安打だった。4回は左前へ。いずれも生還し、存在感を示した。金本監督は言う。「今日、3本打ったから本調子という見方はまだですね。本人が、そう思っていると思うよ」。本領発揮できる打席は、まだ129試合分も残っている。【酒井俊作】

 ▼鳥谷が通算135度目の猛打賞を記録し、和田豊を抜いて阪神単独(3)位となった。初の猛打賞は04年9月12日横浜戦での3安打。セ現役最多は荒木雅博(中日)で152度。セ最多は長嶋茂雄(巨人)で186度。プロ野球最多は張本勲(ロッテ)で251度。なお現阪神監督の金本知憲はセ歴代(4)位の166度(広島79度、阪神87度)。