目前に迫った完封に、たどり着かなかった。9回のマウンドに堂々と上がった阪神ランディ・メッセンジャー投手(36)だったが、代打・桑原に1発を浴びた。黒いグラブを手のひらで何度もたたき悔しがる。完璧を追い求める男は小刻みに首を振り、納得のいかない表情で降板した。

 「もちろん、完封したかったですね。最終回にマウンドに上がるということはそういうことですから。最後まで0を並べたかったという意識はあります」

 それでも107球をテンポよく投げ込んで、8回0/3を6安打1失点。セ・リーグ単独トップとなる6勝目をゲットだ。香田投手コーチが「腕を振る躍動感もあった。力で押さえつけるところも戻ってきた」と称賛するように最速は149キロを計測した。「シリーズの頭ですし、週の頭でもあったので、ゾーンに力強く攻めるという意識があった。ランナーを許してもパニックになるわけにはいかない。ゆっくり落ち着いて丁寧にという意識は常に持って投げてました」。

 お立ち台を見届けたベネッサ夫人と4人の子どもたちも、家族のヒーローをクラブハウスでお出迎えた。「バァー!」。試合後は子どもたちを笑顔であやすと、夫人とは熱い抱擁。虎の大黒柱が「パパ」の顔に戻った。家族との時間を大切にする父親だが、職場に出向けば話は違う。マウンドでは孤独とも闘う。4月12日広島戦(甲子園)では来日9年目にして初の暴言退場。1回2/3でまさかの降板となった。

 そんな悪夢を、自らの手で振り切ろうとした夜がある。次回登板を目前とした4月17日。大粒の雨が降りしきる名古屋の街を、傘も持たず何かをつぶやきながら突き進むメッセンジャーがいた。高ぶる闘志を落ち着かせるように歩く。一方でチームメートを見つけると「グッドナイト! グッドスリープ!」と気遣った。気持ちさえコントロールできれば、マウンドで崩れることはない。虎投の大黒柱メッセンジャーが、5月も突っ走る。【真柴健】