漂ったいやなムードを、豪快アーチで吹き飛ばした。今季、日本ハムから金銭トレードでソフトバンクに加入した市川友也捕手(33)が、本拠地ヤフオクドームで豪快弾だ。「日本生命セ・パ交流戦」巨人戦で、古巣相手に逆転2ラン。今宮健太内野手(26)が出場選手登録を抹消され、Bクラス転落の危機でもあったチームを救った。

 市川が、柳田にもデスパイネにも負けない推定135メートルのアーチをかけた。5回だった。古巣の巨人ファンが陣取る左翼席中段へ。打った本人も「人生で一番飛んだ」と驚く1発。移籍後初のヤフオクドームアーチは、逆転2号2ランで決勝打となった。

 守っては先発摂津を好リード。初回2死一、二塁のピンチでは巨人時代憧れの存在だった阿部の内角を攻め、遊飛に打ち取った。2回には二盗を狙った陽岱鋼を刺した。「巨人には知っている選手もいるし、お世話になったコーチもいる。その前で活躍している姿を見せられたのはよかった」と喜んだ。

 市川は09年ドラフト4位で鷺宮製作所から巨人へ入団。しかし4年間で8試合しか出場できず安打は1本も打てなかった。「(巨人時代は)苦しいことばかりだったが今に役立っている。練習もきつかった。基礎を教わった」と振り返る。入団当初は背番号も「27」だったが、3年目には「69」に。4年目が終わった13年オフに金銭で日本ハムにトレードされた。

 巨人時代、当時の野村克則バッテリーコーチから「ここでは報われていないかもしれないけど、どこかで必ず誰かが見ていてくれるから」と教えられた。その言葉を胸に、腐らずプレーしてきた。今季は開幕から2軍暮らしだったが、捕手陣に故障が相次いだソフトバンクに4月18日に金銭トレードで移籍。投手陣ではサファテ、岩崎、五十嵐、和田、東浜が不在で、野手でも4番内川を欠き、さらに今宮も離脱した異常事態に苦しむチームにとって大きな勝利を運んできた。

 負ければパ・リーグでBクラス転落の可能性もあったこの日、欠かせぬ戦力となった男が文字通り大きな一打を放ってみせた。【石橋隆雄】