もう超人にすがるしかない。阪神は20日のDeNA戦(横浜)に敗れ、5連敗。今季ワーストの借金7で5位に転落、首位広島とはついに10ゲーム差となった。泥沼にはまりこんだが、まだこの男がいる。この日、ウエスタン・リーグ中日戦(甲子園)に出場した糸井嘉男外野手(36)が3打数2安打、3打席目にはバックスクリーン右へ豪快な1発を放り込んだ。右足腓骨(ひこつ)骨折からわずか20日。今日21日に1軍に合流する超人が沈むチームにカツを入れる。

 糸井が甲子園の夜空に復活を告げる放物線を描いた。2点リードの4回2死三塁。中日清水の136キロを完璧に捉えた。フェンス手前ギリギリまで下がってジャンプする中堅手も及ばず、打球はバックスクリーン右に着弾。見届けた糸井は涼しい顔でゆっくりとダイヤモンドを1周した。

 骨折後初の先発出場にも、いきなりエンジン全開だった。初回2死で迎えた第1打席。おなじみの登場曲が聖地に鳴り響くと、バックネット裏の観衆から手拍子が巻き起こる。虎党が抱く、この男への期待感の表れだ。清水の140キロ直球を振り抜くと、右翼手フェンス上部に直撃する二塁打。第2打席に放った左中間へのライナーは左翼手松井佑のダイビングキャッチに阻まれたが、当たり自体は安打と紙一重だった。

 そして予定していた3打席の締めくくりは豪快弾。クラブハウスに引き揚げる際には「行くぞ、横浜!」と宣戦布告。そのたたずまいには、超人の威厳がみなぎった。

 5回の守備から退いたが、それまで2度の打球処理を難なくこなした。試合後、矢野2軍監督は「打つほうはもちろん問題ないんやけど。ファウルフライにも走れてたし、二塁打のところではちょっと(足を)気にしてるかなというのはあったけど。それ以外はいけるかな」と評価した。

 骨折直後から「痛いにきまってるやろ」と話しながらも鳴尾浜でトレーニングに励んだ。順調に実戦復帰までこぎ着け、超速回復を見せている。「頭はもう1軍に向いているか」という報道陣の問いには、「もちろん」と力強く即答。1軍は後半戦いまだ勝てず、5連敗中。苦しむ虎を救うべく、糸井が臨戦態勢を整えた。【吉見元太】

<阪神糸井の故障経過>

 ▼6月30日 ヤクルト戦(神宮)の8回の打席で右膝付近に死球を受けた。

 ▼7月1日 試合を欠場し都内の宿舎で体を動かした。金本監督も「ちょっとしんどいかも分からん」と出場選手登録抹消の可能性を示唆。

 ▼同3日 大阪府内の病院で診察を受け「右足腓骨(ひこつ)骨折」と診断された。同日、登録抹消。

 ▼同5日 金本監督が「思っているより早く復帰できると思うよ。オールスター明けぐらいから」と早期復帰を示唆。糸井も3日から打撃練習を行っていた。

 ▼同12日 球宴に強行出場することが明らかに。辞退すれば球宴後10試合出場できなかったが、これを回避。

 ▼同13日 球宴第1戦(京セラドーム大阪)で6回に代打で登場。二飛に倒れたが、実戦に復帰。驚異的な回復力を披露した。2戦目は出場なし。

 ▼同16日 鳴尾浜で本格的なフリー打撃を再開。85スイングで9本の柵越え。外野ノックも受けた。

 ▼同18日 3日連続のフリー打撃で8本の柵越え。視察した平野打撃コーチも「問題ないと思う」と話した。