金本阪神が苦しんで長期ロード初星をもぎ取った。攻守に光ったのが、この日24歳の誕生日を迎えた北條史也内野手だ。打っては先制タイムリーにダメ押し犠飛。守っては4回の悪送球を取り返す、8回のスーパーキャッチで勝利に貢献した。順位は変わらず5位ながら、連勝を7でストップさせた2位ヤクルトとの差を2・5ゲームに詰めた。

 飛びついた北條は勢い余って倒れ込んだ。つかんだボールは決して離さなかった。

 1点リードの8回2死一、三塁。一打同点の場面だった。ヤクルト川端のライナーが三遊間を襲う。誰もが「抜けた」と覚悟したその時、北條が体を目いっぱい伸ばしてジャンピングキャッチした。

 北條 三塁側にファウルが飛んでいたので、そっちに飛ぶと思っていた。1歩目のスタートが良かったと思います。

 4回には先頭バレンティンのゴロを一塁へ悪送球していた。何とか無失点で切り抜けたが、ベンチに帰る際には一目散にメッセンジャーに駆け寄った。メッセンジャーには“気にするな”とお尻をポンとたたかれたが、表情には悔しさがにじんだ。この日は24歳の誕生日。8回の「バースデー好捕」でマウンド上の藤川から笑顔で声をかけられると、今度は白い歯を見せながらベンチへ戻った。

 バットでも自らを祝っていた。初回無死二塁。ヤクルト石川の外角低めシンカーに両腕を伸ばす。中前へ抜ける先制打。青木が打球処理をもたつく間に二塁を陥れる好走塁も加え、虎党から贈られたバースデーソングに応えた。

 5月31日に今季初昇格も、無安打のまま6月12日に2軍落ち。それでも腐らなかったから今がある。矢野2軍監督は「ジョーは1軍でも2軍でも、やることが変わらんのよ。誰が見ていても(手を)抜くことはしない」と評価する。

 変わらない態度は敵軍のファンに対しても同じだ。6月の敵地ウエスタン・リーグ広島戦後のこと。「北條さぁ~ん」。選手を見送る虎党に交じり、ペンと色紙を手にした赤い帽子の少年から叫ばれた。バスに足を向けていた北條は、引き返してサインに応じた。

 6月22日の再昇格以降、勢いは増すばかりだ。これで9試合連続安打。スタメン試合に限れば19試合連続安打と絶好調だ。7月の月間打率は4割に迫り、恐怖の2番打者として猛アピールを続けている。

 前日28日、金本監督から「(チャンスを)つかむか、放すかは彼次第。ポジションは渡すものじゃない。ある程度はコイツでいこうかなというものを見せてくれたら少々は我慢する」とハッパをかけられていた。指揮官の熱い思いに結果で応え、向上心はより一層高まるばかりだ。

 北條 その後(2打席目以降)も打ちたかったですけど、内容は悪くない。チームが勝ったし、そこは良かったです。

 1つ年を重ねた背番号2は、また頼もしくなった。【吉見元太】