誰よりも興奮している仲間の元へ、優しくほほ笑みながら歩みを進めた。1点を追う7回無死。阪神エフレン・ナバーロ内野手(32)が弾丸ライナーをオレンジ色の右翼席に吸い込ませた。2ボールから山口俊の低め144キロを寸分の狂いもなくミートし、起死回生の2号同点ソロ。三塁側ベンチ奥では両手をあげ、満面の笑みで大はしゃぎするロサリオの姿があった。

 「最近なかなかチームに貢献できず迷惑をかけていた。ひと振りで多少は勢いをつけられて、いい打席になったと思うよ」

 4試合ぶりに先発した前日8日巨人戦は4打数無安打。それでも2試合連続スタメン起用され、いきなり中堅守備で痛恨のミスを犯していた。1回裏、1番マルティネスの左中間二塁打を止めた直後、三塁方向へのラインに入ったカットマンに気付かず、誰もいない二塁へ送球。まさかの悪送球で三塁進塁を許し、先発秋山のこの回2失点を誘っていた。「完全に自分のエラー。取り返したかったんだ」。熱い感情は、冷静にバットへ落とし込んだ。

 常に思慮深い男だ。ネバダ大ラスベガス校時代から勉強熱心で仲間思い。来日後はロサリオの復調にもひと役買っている。ある球団関係者は「2人の関係はロサリオがしゃべり続けて、ナバーロは静かに優しく聞き役に徹する感じ」と目を細める。この日は1点を追う6回1死一、三塁で併殺打に倒れたロサリオの場面を1発で消し去り、激しいハイタッチで感謝された。

 試合前には寂しいニュースに耳を疑った。17年WBCメキシコ代表の同僚で親交の深い楽天アマダーの禁止薬物使用が発覚。「悲しいよ。仲のいい友達なので。詳しいことは分からないけど、ああいう形で処分されたのは悲しい」。それでもいざ試合が始まれば、心の動揺は静かにおさめて値千金の1発。最後は報道陣に丁寧に対応した後、柔らかな表情でチームバスに乗り込んだ。【佐井陽介】