トリ、すごいぞ! 阪神鳥谷敬内野手(37)が、藤田平に並ぶ球団最多の2064安打をマークした。8回に代打で出場し、ヘルウェグから遊撃へ内野安打。猛虎史上、最高のヒットマンに並び立った。15年目の今季は出番が激減したが、信条の「向上心」でまだまだ成長できると貪欲に奮闘中。チームは2試合連続完封負けで偉業に花を添えられなかったが、新記録の1本は勝利で祝いたい。

クールな仮面を脱ぎ捨て、泥臭く一塁ベースを駆け抜けた。これが本来の「鳥谷らしさ」なのかもしれない。

1点を追う8回、先頭で代打登場。右腕ヘルウェグの低め148キロをたたいた。高く跳ねた打球は土にバウンドして、遊撃田中のグラブをはじく。プロ15年目。ともしたHランプはついに2064回に達した。

「あまり、そこを目指していたわけでもないし、打てるとも思っていなかった。良かったです」

藤田平氏の球団最多安打記録に並んだ。完封負けを喫したこともあり、試合後は仮面をつけ直した。

「オレ、心は弱いと思うよ。弱い自分を客観的に見てカバーすることで、強くなろうとしてきた」

そう自己分析する。

エリート街道を突き進んだ思われがちな15年間。人知れずコンプレックスと戦い続けた。

プロ1年目。弱点を研究され、執拗(しつよう)に内角を攻められた。

「最初は内が打てないと言われて、必死で対策を考えた。それなら今度はインコースに絞って、それを3、4球ファウルにすれば、全球インコースには来なくなる。そうやって1つずつ、対処法を考えてきた」

代名詞となった選球眼の良さも、生き抜くために「仕方なく」身につけた。

「首位打者になるような(ソフトバンク)内川、(ヤクルト)青木は、外されたボールでもヒットにできる。でも自分にはできなかった。だったら、そういうところを求めるより、1安打と1四球は同じだと考えるしかないな、と。糸井みたいな身体能力があるわけでもないし、できるところで勝負するしかなかった」

誰だって派手で華やかなプレーにあこがれはある。そんな気持ちにフタをして、冷静に自分を客観視し続けた先に「2064」が待っていた。

今季は出番が激減し、今では代打出場が主戦場。それでも、まだまだ成長できると確信している。

「試合に出られないならこう準備してみようとか、今は勉強する時期なんだと思う。勉強した経験しか、人に伝えられないしね」

37歳。今も闘争心に衰えはない。球団史を塗り替える次の1本は、必ず勝って決めてみせる。

「毎日勝ちたいし、打席に立ったら打ちたい。頑張ります」

最後にまた、泥臭い素顔がのぞいた。【佐井陽介】