楽天の三木谷浩史会長兼オーナーとは近年、年に1度ほどのペースで会って取材をしている。

二子玉川の駅を降り、スターバックスで質問を整理し、楽天の本社へ向かう。前夜くらいから落ち着かなくなり、アポの時間が迫ると心臓の音を感じる。

いい年こいて取材で緊張するとは、どういうことなんだろうか。大物だから? 球界で大物とされる人物と話す場合と比べてみるが、どんな年長者でも、この種の胸騒ぎを覚えることはない。

シンプルに考えれば、結局は取材者と取材対象者の関係である。ハッキリと自分の考えや質問の意図を伝えて、答えをもらえばいいだけ。妙にへりくだったり遠慮することは、多忙な三木谷氏に対して逆に失礼。何より情けなくて嫌だ。ならば、この感情は一体、何だろう…前室で待つ間に思いが頭を巡り、組み立てた質問が飛んでしまうケースもある。

会えばモヤモヤは一瞬で消え、あっという間に時間は過ぎる。言葉には力がみなぎり、踊っている。感情にまかせた単なる力ではない。徹底した裏付けから生まれるアイデアに直感を掛け合わせ、新たな価値を創造しようと、いつ何時も狙っていく力を感じる。

「平成野球史」の取材だったが、主なテーマは未来に跳ねた。イーグルスや球界の発展に向けた考えはもちろん、サッカー、バスケットボール、テニス…なぜスポーツ界全体に目を向け、大きく伸ばそうとしているかの深い思考に、語りの神髄はあった。稚拙な表現で言葉の真意を損なわないよう、ニュアンスを含めてほぼノーカットで掲載することに決めた。

事前に質問を考えることなど、いつもほとんど意味をなしていない。そもそも、そんな想定問答なら、緊張するような取材ではない。取材の原点とは「この人と話をしたい、聞きたい」という衝動。胸の鼓動は単なる緊張ではなく、衝動に突き動かされた興奮と期待による高鳴り。三木谷氏は「この人は一体、何を考え、何を話してくれるんだろう」という魅力に満ちている。【宮下敬至】