東京6大学リーグ各校の4年生進路が28日、ほぼ出そろった。プロからも注目された最速147キロ左腕の慶大・田中裕貴投手(4年=芝)は、全日本空輸(ANA)に運航乗務職(自社養成パイロット)採用で入社予定。数年間、パイロットの訓練を受けた後、飛行機に乗務する。

マウンドから空へと飛び立つ田中は、希望に満ちあふれた表情で夢を語った。「これまでは野球に懸けた人生でしたが、これからは空を飛ぶことに人生を懸けたいです」とパイロットへの挑戦に気持ちを高揚させた。

プロも注目する大型左腕だった。今春のリーグ戦(対立大)、田中の1球に神宮が沸いた。189センチの長身から投じた直球は、自己最速の147キロをマーク。プロでもレアな「長身、左腕、剛速球」でスカウトを驚かせた。

ドラフトの「隠し玉」に浮上するかに思われたが、スカウトの間で田中の夢は周知の話だった。「3年秋の開幕前に結果を残せなかったら、やめると決めたんです」。大久保秀昭監督(49)から「本当にいいのか?」と言われたが、1試合の登板に終わったシーズン後、新たな道に進むと決断した。

母順子さんがキャビンアテンダントで、幼少期からパイロットと触れ合う機会に恵まれた。「かっこいいなと思いました」。当時、抱いた憧れは試験が進むにつれ、目標へと変化。「飛行機を飛ばす上で大事なのはチームワークだと。野球で学んだことを生かしたいと思いました」。

芝高時代、最速140キロ左腕でプロからも注目されたが、東京6大学リーグでのプレーに憧れ、慶大に一般入試で入学した。腰痛、肩痛とケガに苦しみながら、2度のリーグ優勝を経験。「本当に幸せでした。野球はやめますが、行きたい会社に入れるので今はワクワクしています」と目を輝かせた。【久保賢吾】

◆田中裕貴(たなか・ゆうき)1996年(平8)4月30日、東京・品川区生まれ。小3で野球を始め、中学は芝シニアでプレー。芝高では1年夏からベンチ入り。慶大では3年秋にリーグ戦初登板。4年時は投手キャプテンとなり、春は5試合に登板。優勝に貢献した。今夏は大学日本代表(東京6大学選抜)として世界大学野球選手権で優勝。家族は両親と兄。189センチ、86キロ。左投げ左打ち。