東都大学野球春季リーグが開幕し、第1試合で国学院大が昨秋リーグ制覇の立正大を5-3で下し先勝。先発横山楓投手(4年=宮崎学園)が5回を1失点に抑えた。

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バスはエンジンをかけて待っていた。エースは小走りに球場から飛び出してきた。手にはウイニングボール。バスの横でほほ笑む女性に駆け寄り、さっと手渡す。言葉はいらない。白球にすべてがこもっている。

8日は母香子(きょうこ)さん45回目の誕生日。宮崎から上京し、ひとり息子の勇姿を、見た。「最終学年です。できる限り来たいと思って。最高の気持ちです」。

横山は昨春の東洋大戦では中継ぎで勝った。「今日は先発で勝てました。来ていたので母に渡します」。横山は顔を赤らめ、うれしそう。

立正大に対し、最速145キロの直球を軸に5回2安打7奪三振での失点1。鳥山泰孝監督(43)は「本来の力は出てません。球速もスピードガンが壊れてるんじゃないかと…。でも、悪いなりに試合をつくってくれた」と言った。

名前は「楓」。小学1年の時、由来を香子さんに尋ねた。「楓はいろんな植物の中で最後に色づくから。最後にきれいな色になって花を咲かしてと、母に教えてもらいました」。

横山 小学1年で、まだ野球はしてませんでした。でも、それを聞いて最後に成功できるなんて…。いい名前です、とても気に入っています。

名前も知らない、顔も記憶がない。1歳の時に父は他界した。「父のことは何も知りません。でも、この名前を付けてくれました。僕は母に野球で頑張る姿をたくさん見せたい」。母は宮崎の介護施設で調理をして学費を賄ってきた。母は息子のボールをぎゅっと握った。【井上真】