ムードメーカーの一振りが、二転三転する試合に決着をつけた。

日本ハム杉谷拳士内野手が、楽天6回戦の延長12回2死満塁から、左翼に値千金のサヨナラ打を放った。6回に追いつき、7回に一時逆転しながら8回再逆転され、再び追いついた試合は、引き分け間際の土壇場で最高の幕切れとなった。

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笑顔の真ん中で、ヒーローは、しかめっ面だった。スポーツドリンクによる手荒い祝福のシャワーに、日本ハム杉谷は、おぼれそうになっていた。「最初にタイシ(大田)が見えて、抱きつこうとしたらスルーされたので混乱しました」。興奮のるつぼと化した本拠地の札幌ドームで、完全に舞い上がっていた。

もつれに、もつれた延長12回。2者連続の申告敬遠での満塁から2死となった土壇場で、打席がまわってきた。その前の11回の打席ではバント失敗で好機をつぶしていただけに、取り返したい気持ちが強かった。「誠さん(金子打撃チーフ兼作戦コーチ)から『お前にまわって来るから必死で行け。内角のスライダーには当たればいいから』と言われていた」。決死の覚悟で打席に立ち「狙っていた」という楽天青山の144キロ直球を振り抜いた。打球は前進守備の左翼手の頭を軽々と越える、殊勲のサヨナラ打となった。

春季キャンプ中、栗山監督から「開幕、あるかもしれないから準備をしておけ」と二塁でのスタメンを期待される声をかけてもらいながら、競争に敗れてベンチスタートが続いた。それでも、チーム一の元気印は決して腐らなかった。試合前の練習中、栗山監督に「監督、僕はいつでも用意が出来ていますよ!」と、アピールするのが日課になった。「いつも前向きに野球に取り組んでいるので、神様がチャンスをくれたのかな」。この日も7回途中から、4番中田の代走で出場。死闘の決着を、つけた。

サヨナラ打は自身7年ぶり2度目。「明日(26日)は監督の誕生日だから、気持ちが入りました。『57歳サヨナラ記念日』で、いいですか?」。前祝いの“首位たたき”でチームは3カードぶりの勝ち越し。27日から始まる平成最後の3連戦に弾みを付けた。【中島宙恵】

▼日本ハム杉谷のサヨナラ打は、プロ4年目だった12年8月8日ソフトバンク戦(帯広)以来2度目。12年ソフトバンク戦は6-6で迎えた9回2死一、二塁から代打で登場。2ボール1ストライクからの4球目を強振し、左中間を破る二塁打で試合を決めた。