波乱の展開で必死に踏みとどまったのは、プロ3年目でリリーフ初登板の阪神小野泰己投手だ。1点リードの7回2死二、三塁。抜け球が4番井上の左手付近を直撃する。激高した井上が指を3本突き立てて梅野に詰め寄る。「3つ目やぞ」のジェスチャーで怒りを示すと、両軍ナインが本塁付近に殺到。一触即発の状態に陥った。

前日5日も2死球ぶつけていた。笠原球審が警告試合を宣告する険悪ムードだが、マウンドの小野は動じなかった。香月を速球で押し込み、左飛に料理した。矢野監督も「いままで先発を多くしてきた投手が中継ぎをやるのは、めちゃくちゃ難しい。普段とは全然違う気持ちでマウンドに上がったなかで、2回をしっかり抑えてくれたのも大きい」と最敬礼のコメントだ。

3年目の今季は2月キャンプで右肘を痛めた。ようやく傷が癒え、19年初登板のこの日が、プロ初の救援登板。指揮官は「俺はもう腹くくっている。でもめっちゃドキドキしたよ」と胸中を明かした。緊迫した1点リードの6回から投入。140キロ台後半の速球主体で攻めて、中村奨ら3者を内野ゴロで片づけた。7回は絶体絶命のピンチを招いたが、切り抜けた。

リリーフ小野は「秘策」だ。昨年11月の安芸秋季キャンプ。実戦でも救援登板を試した。まさに、この日のような展開に備えた「秘密兵器」だろう。開幕からフル回転のジョンソンの温存が試合前から決まっていた。そのなかで、2イニングを無失点。指揮官が「あそこで2回行ってくれたら最高」と思い描いた通りの力投だった。特に投手が打席に立たないパ・リーグ本拠地試合で強力なピースになりそう。今後のロング救援として「そのためにちょっと上げた」と構想する。

昨季7勝など先発一筋で2年奮闘してきた剛腕も言う。「先発の時より緊張しました。とりあえず全力で投げることを意識してマウンドに上がりました」。先発、リリーフともに層が分厚い投手陣が、さらに強くなりそうだ。【酒井俊作】