どんなピンチにも表情一つ変えなかった右腕が、静かに涙を流した。タイブレークの延長10回2死満塁。

サヨナラの打球が左前にはずむと、好投を続けてきた高知工科大・尾崎修志投手(4年=徳島北)は「終わったな…」と帽子で顔を隠して肩を震わせた。

全国的には無名の右腕だが、四国では難攻不落の好投手として知られる。今春の四国リーグは8試合で7勝無敗、防御率1・15。速球は130キロ台だがシュートするツーシームとカットボールを絶妙に両サイドに投げ分ける。直球と同じ軌道から曲げるため、相手は見極めが難しい。チェンジアップも緩急をつけた2種類を擁する。

「疲れはなかったです。8割くらいの力で投げるので終盤でも投げられます。最後の球は外にボール球にしようとしたのが中に入りました。失投の怖さを知りました」。失投は6回に2ランを打たれたスライダーと、最後の1球くらいだったという。人生初の全国大会でも自分らしい投球でアウトを重ねた。

今大会唯一の国公立大。強化費はほとんどなく、遠征も費用がかからない学校所有のバスを使った日帰りがほとんど。全国初出場が決まってからは、遠征費の捻出に苦労した。高知県では甲子園出場校やよさこい祭りの際に寄付をし合う「奉加帳(ほうがちょう)」の風習が残る。部員や親らが知り合いや、出身校のOBなどに寄付をお願いして回ると1000人以上から数百万円が集まった。メンバーや応援団が2回戦まで東京に滞在できる額だ。

控え部員らは夜行バスを使って神宮にやってきた。今春の指揮を執った福田直史監督(50)は「お世話になった方々には『勝ったね』という報告ができれば一番だったのですが。名簿を整理して、ハガキを出したり、分かっている人には直接お礼にいきたい」と頭を下げた。

メンバー全員で練習する状況が整わず、練習は基本週2日休み。平日は2時間程度の中で集中する。部員はほとんどがアルバイトに就き、中には深夜勤をこなして試合に駆けつける選手もいる。野球ができる感謝を表すように、部のモットーは「楽しむこと」。神宮の三塁ベンチには快活な声が響き続けた。福田監督は「うちの良さは明るく、楽しく。騒がしかったかもしれないけど、ああいう雰囲気で点を取るのがうちのパターンですので」と目を細めた。

4年生は基本的にこの春で引退する。尾崎もその1人。周囲からは続行を希望されているが、後輩に出場機会を与えてほしいという思いが強く、ユニホームに別れを告げるつもりだ。速い球は投げられない自分を認め、打者を見ながら打たせてとる投球に磨きをかけ続けた3年半だった。集大成になったこの試合は「95点。打たれたので。ちゃんと投げ切れたら100点でした」と笑った。

「もうちょっと球が速ければ社会人でもやりたかったけど、でも無理なので。(大学野球は)すごくよかったです。入学したての春のリーグ戦で投げさせてもらって4回7失点で挫折しましたが、ここまで成長できた。高校の時は忘れていた野球の楽しさを、みんなが思い出させてくれた。初の全国でも自分の投球ができたら通用することが分かった。野球はもうやりませんが、今後の人生に生かしたいです」。笑顔でそう語った。