V奪回を目指すロッテは、井口資仁監督(45)が今岡真訪2軍監督(45)と取り組む組織改革が進行中だ。今秋ドラフト1位で大船渡・佐々木朗希投手(18)を獲得。17年安田、18年藤原に続いて高校生スターが加わった。来季3年目の今岡2軍監督にインタビュー。3回連載の第1回は、「佐々木が見る風景」を「体」と「心」の両面からリポートする。【取材・構成=酒井俊作】

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またロッテに高校生スターが加わった。今度は高校史上最速163キロ右腕の佐々木だ。この超高校生級の逸材をどう育てるのか。野球ファンなら、誰もが関心を持つトピックスである。すでに球団は来季の方針として1、2軍戦合わせて年間50イニング前後の登板に決定。おもに2軍で体力づくりに専念するという。

今岡 投げるイニングはある程度、決めています。あとは2軍でプログラムに沿って体を作る。2軍のトレーニングに、順天堂大が入ってきますから。

期せずして、佐々木らは絶好のタイミングで入団してきた。チームは来季から順天堂大学医学部付属順天堂医院、同浦安病院と提携。24時間体制で最先端医療のサポートを受け、トレーニングプログラムの作成など、バックアップは多岐にわたる。井口が盟友の今岡と取り組んできた組織改革の一環だ。

今岡 2軍では毎朝、体重計に乗る。脈拍とか、いろんな数値がある。状態が落ちていたら、じゃあ練習をなしにしようかとか、試合も休ませようかとか。これが育成のシステムです。

ファームは毎朝、強化選手を対象に体調管理を行っており、今季から疲労度を数値化。これらの客観的な指標も生かして練習や試合の可否を決めてきた。2軍のシステムが下敷きになり、来年から同大のノウハウを導入してバージョンアップ。選手起用も含めて、貴重な判断材料になる。練習メニューや試合参加は、現場を預かる首脳陣の裁量に委ねるのが常識になっているなか、球界でも画期的なシステムといえるだろう。

今岡 順天堂大では骨密度も測ります。疲労度によって、こういう数値のときは、こういう食事をしなさいとなるかもしれない。いろいろな部分で、よりピンポイントにアプローチできる。だから、トレーニングも佐々木に合っていることをするだけです。

今岡は万全に「体」を鍛える環境作りを進めながら「心」のあり方を伝える。「チームが勝つためにどうするかは、絶対に答えがある。どうやって打つかは、答えがないでしょう。答えがあることしか言わない」。17年ドラフト1位の安田尚憲、18年1位の藤原恭大も、この教えに接し、日々を戦ってきた。

今岡 2軍でやっていることを1軍でそのままやれと。チームが勝つために、投手も野手もいろんなことを感じて行動してほしい。2軍は、ただ試合で使って経験させるのが育成だととらえられがちですが、勝つために選手個々がどうするのかを交えないと本当の育成じゃないと思います。

井口のもとで構築した強化体制は来季3年目でようやく理想的な形を整えた。井口と今岡が生まれた1974年(昭49)以来、46年ぶりのレギュラーシーズン1位、そして05年以来のリーグ優勝を狙う。今岡も独自の手法で将来性豊かな逸材の心身を鍛え抜き、新たに剛腕が加わる。「能力のある選手は自分で勝手に育っていくものです。佐々木を技術的に触ることはないでしょう。人間は仕組みが育てる。組織が育てます」。信念がにじんだ。(敬称略)

◆19年のロッテ2軍 今岡2軍監督2年目の今季はイースタン・リーグで125試合を66勝52敗7分けだった。シーズン序盤から首位を快走したが、主戦の小島ら投手陣が1軍昇格すると、楽天に逆転されたが、2位と健闘。昨季の貯金5からさらに勝率を上げた。安田は122試合出場で19本塁打、82打点、116安打の3冠。1年目の藤原は82戦で打率2割2分7厘、4本塁打、16盗塁だった。

◆近年の主な高卒新人投手 1年目から多くのイニングを投げ、大成につなげるケースが目立つ。1軍のみで出場した99年松坂大輔(西武)はチーム最多の180イニングを投げ、16勝で最多勝を獲得。05年ダルビッシュ有(日本ハム)は1軍94イニング1/3+2軍26イニングの計120イニング1/3。07年田中将大(楽天)は1軍のみで、リーグ4位の186イニング1/3で11勝。同年の前田健太(広島)は2軍のみだったが、103イニング2/3を投げ十分な経験を積んでいる。佐々木が予定する年間50イニングは異例の少なさといえる。