野球は元気です-。プロ野球オープン戦は2月29日、新型コロナウイルス感染拡大防止のために無観客での実施を決めて以降、初めて試合が行われた。11年に東日本大震災の影響で練習試合を無観客で行った例はあるが、オープン戦が無観客で行われるのは史上初めて。巨人原辰徳監督(61)は「集中することは一緒。後ろは向かない。前向きに」。ファンが待ちわびる20日の開幕戦に向け準備を進める。

   ◇   ◇   ◇

いつもなら大歓声でかき消されるはずの甲高い声が、バックネット裏の上段まで響き渡った。「モタさん!」。4回1死二塁、体勢を崩されながら左翼席に先制2ランを運んだパワーヒッターを、原監督が笑顔で迎え入れる。「さん」は敬意の表れ。今キャンプ最大の「サプライズ」と表現する育成出身の豪快弾に、おのずと声も上ずった。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、オープン戦は全試合無観客での開催が決まった。その初戦。午後4時58分に掛け声とともに選手が一塁側ベンチを飛び出すと、先発菅野が投げ、受ける小林のミット音が響く。応援歌も球場演出もない。慣れない雰囲気の一戦に、指揮官は「集中することは一緒ですよ。戦うスタイルとしてね。変わっているようでは話にならない」と強い姿勢を求めた。

無観客開催が決定した翌2月27日。「後ろは向かない。前向きに」とジャイアンツ球場の一塁側ベンチにどっしり座って切り出した。「何かいいニュースを発信したいな」。日本中を取り巻く重苦しい雰囲気。推移を注視し、心を痛めながら野球界としてあえて「陽」の話題を“演出”した。

外野に全選手を集めると、青空の下で「監督、コーチの中で意見は一致した。君たちはどうだい」と問い掛けた。モタの支配下登録をチームの総意として球団に直談判。前代未聞のサクセスストーリーで夢をかなえたモタは、背番号「44」をつけた最初の試合で記念のアーチをたたき込んだ。昨年までの愛称ビッグベイビーを封印し、2代目「若大将」に指名した4番岡本にも特大ソロ。敗れはしたが、2時間33分に野球の魅力が詰まっていた。

「我々は、我々の中での勝負があるし、無観客だからということはない。そういう姿を、幸いテレビで放映してくれているという点でね。ファンの皆さんは注目して見てくれてると思う。そこは我々にとってもいいことだと思いますね」

11年の東日本大震災時は、楽天嶋(現ヤクルト)の「見せましょう 野球の底力を」の言葉で団結し、復興を目指した。今回は先の見えないウイルスの脅威。それでも球場でのプレーは続く。3月20日の開幕に向けて、プロの技術を研ぎ澄ませていく。【前田祐輔】

▽巨人坂本(背中右側違和感から実戦復帰。初回に中前打)「もっと打席に立てば、感覚も良くなってくると思う」