新型コロナウイルス感染拡大を受けて、プロ野球が開幕延期で揺れる中、日刊スポーツは「開幕と私」と題し、本紙評論家陣が「開幕」にまつわるエピソードを語ります。第2回は元阪神監督の真弓明信氏(66)が東日本大震災で開幕延期となった11年を振り返り、今年の開幕を待つ虎戦士に助言を送った。【取材・構成=田口真一郎】

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11年のセ・リーグ開幕日は2度変わった。当初は3月25日、阪神の相手はヤクルトで、舞台は今年と同じ神宮だった。それが同29日に変更し、さらに4月12日に再延期となった。混乱のきっかけは、3月11日の東日本大震災。開幕日を巡り、セ・パの足並みがそろわず、当時の新井貴浩プロ野球選手会会長が延期を訴えるなど、激しい議論の末の日程変更だった。就任3年目だった真弓氏は3・11を今も鮮明に覚えている。

「神社参拝を終え、甲子園で軽く練習した。風呂上がりで体を拭いていると、ゆっくりと揺れた。立ちくらみかと思った。テレビを見ると、津波が襲い、大変なことになっていた」

夜には電鉄本社主催の激励会を予定していたが急きょ中止。翌12日のオープン戦は中止となったが、中日との実戦形式の合同練習という形を取った。無観客での実戦が続いたが、「野球をやっていていいのか」という葛藤が選手にあった。

「集中できなかった、というのはある。今と同じ状態かもしれない。レギュラーでも、シーズンに入ったぐらいの気持ちでやっておかないと、緩んだ感じになってしまう」

4月12日のセ・パ同時開幕が決まった。当初の予定から2週間の延期。4月2日に組まれた横浜(現DeNA)との慈善試合で真弓氏はベストオーダーを組み、機運を高めた。

「調整が難しいといっても、試合が決まれば集中しないといけない。監督、コーチはどうすればベストの状態にもっていけるか、だけを考えた。体調に関しては、選手それぞれで考えてもらわないといけない」

激動の中で迎えた開幕戦は先発能見が試合を作り、4番新井の活躍もあり、白星発進となった。ファンを勇気づけるプレーに、真弓氏はあらためて思った。

「仮設住宅や体育館で寝泊まりしている人が、テレビをつけても暗いニュースばかりでは気は紛れない。そういう時のために、スポーツがあると思う。明るい話題を提供しなければならないと思った。ただ今回は明らかに違う。この状況での開幕は無理だ」

今年の開幕は新型コロナウイルスの影響で、最低でも3週間の延期が確定。真弓氏は表情を曇らせた。オープン戦で大山や高山らの活躍でセ・リーグ首位の成績を残した。真弓氏は今後の注意点を挙げた。

「時間に余裕がある時は、さらに自分の理想に近づけようとするが、自分が描いているものと、本当のいい形が違う時がある。練習すればするほど、悪い方向にいくケースがある。これが最も怖い。いい時の状態を映像でしっかり見て、コーチと確認することが大事だ」