プロ野球開幕を放送席から実況アナウンサーが伝えた。無観客開催を強いられる今、野球中継の使命は例年以上に増す。歓声もなければ鳴り物もない異例の開幕戦。各局のアナウンサーが、思い思いのフレーズで2020年、プロ野球開幕を告げた。

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TBS初田啓介アナウンサー(49)が“思い1球”で開幕を伝えた。「フレーズは用意しない。取材をしたことはしっかりと頭の中でまとめて、放送席に座ったときに感じたことをそのままに実況します」。特別なシーズンの大役も不動心で臨んだ。

5月中旬。「不安になった」。誰もいない自宅近くの公園で発声練習をした。新人時代に課題として与えられた歌舞伎の「ういろう売り」でのどを慣らした。「スポーツ実況のように3時間以上、ある程度の声量でしゃべりっぱなしの業務は他にない。例年のようなオープン戦からシーズンという準備期間がなくなった」。入社当時を思い返した。

開幕前日の18日。DeNA今永の「野球選手から野球をとったら何が残るのか。この期間にずっと考えていた」が心に刺さった。「私もスポーツ実況をとったら何が残るのか。私には何も残らない。自粛期間中、日本中の皆さんの我慢があっての開催。実況をできることに感謝をしたい。その思いを伝えたい」。

無人のスタンドからも思いを感じとった。「1席1席にファンがいる。満員だと思って実況する。実況するときは耳から入ってくる音がすごく大事になる。ファンの声援もそうです。その音に乗せてもらっている」。開幕を信じて辛抱を重ね、待ちに待ったプロ野球ファンの思いを実況に乗せた。【為田聡史】