かつてプロの世界で活躍した野球人にセカンドキャリアを聞く「ザ・インタビュー~元プロ野球選手たちのセカンドステージ」に昨年登場した元近鉄投手の池上誠一氏(53)に現在の状況を聞きました。理学療法士として大阪市内の病院に勤務する傍ら、高校及び大学の野球部で指導を行う同氏にとって新型コロナウイルス問題による影響とは…。「ザ・インタビュー特別編」としてお届けします。【取材・構成=安藤宏樹】

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「患者さんには高齢で基礎疾患をお持ちの方も多いので、感染しないこと、感染させないことにもっとも注意しています。ただ、このウイルスはわからないことが多いので、本当に難しいことばかりです」。

緊急事態宣言期間中も、そして解除された後も通常の勤務態勢で理学療法士としてリハビリを担当する池上氏だが、世界を脅かし続けるウイルスに不安と戸惑いは隠せなかった。リハビリの指導などでは消毒、換気、マスクはもちろんのこと、ゴーグルも使用。細心の注意を払いつつ、医療に携わる1人として、手探りの日々がいまも続いていた。

32歳で現役引退後、焼き鳥店を開業した。2年ほど過ぎ、かつての級友に誘われた草野球が転機となった。楽しみにしていた久しぶりのマウンドで愕然(がくぜん)とした。現役時代に痛めた右肩の状態は変わらぬまま。まともな投球が出来なかった。

改めて自らの野球人生を振り返った。結論は「どうしても体の仕組みを知りたくなった」。焼き鳥店を閉め、35歳で専門学校入学を目指す。だが、半年に1度の入学試験も2度落ちた。最後と決めた3度目の試験に合格し、難関の国家試験を突破。40歳から理学療法士への道を歩み始めた。

理学療法士となって自らの野球人生を整理し、リハビリを生業(なりわい)とする中で、大好きだった野球との接点が少しずつ戻ってきた。母校・滝川野球部の流れをくむ滝川二高で指導を始め、近畿学生リーグに所属する大阪工大でも投手コーチとして活動。だが、その動きもウイルスによって急ブレーキがかかった。それでも今月に入り、少しずつではあるが前に動き始めたという。

「6月に入り、高校は活動を始めましたが、大学は新型コロナウイルスの対策をしっかり考えた上で徐々に活動を再開する方向です。先日、久しぶりにグラウンドで高校生の顔を見ました。明るく振る舞ってはいましたが、パフォーマンス的には当然ですが、厳しいな、と感じました。例年なら夏の大会に向けて(練習的には厳しい内容で)追い込みをしたりする時期ですが、それはありえませんよね。今年の場合はどう対応したらいいのか。選手たちもわからないでしょうし、我々も正直、難しいなと感じています」。

兵庫県は7月18日から独自大会が開催される予定だが、部活動は1人2時間、3部制、土日は隔日といったさまざまな制限下での練習再開。前例のない対応が求められる難しさに池上氏はしばらく間を置いてからこう結んだ。

「この表現が適切かどうか自分でもわからないところがありますが、今年の3年生に限っては用意していただいた夏の独自大会を『楽しんでほしい』と思っています」。

理学療法士としても、野球指導者としても不安と戸惑い、課題は次々と押し寄せてくる。そんな中、これからも可能な限り、患者も球児もサポートしていく。

◆池上誠一(いけうえ・こういち)1967年6月12日生まれ。兵庫県出身。滝川高から85年ドラフト4位で近鉄入団。99年横浜に移籍し、このシーズン限りで引退。プロ通算167試合に登板。14勝10敗1セーブ、防御率4・15。右投げ右打ち。引退後に理学療法士の資格を取得。現在は「みどりの風クリニック・リハビリテーション科」(大阪市東成区)に勤務。兵庫・滝川二高、大阪工大硬式野球部で投手コーチとして指導に携わる。