福岡でのソフトバンクとの開幕カードを勝ち越したロッテは23日、ZOZOマリンでの本拠地開幕オリックス戦を迎える。

スタンドの熱気はまだなくとも、いつもの声はある。球団職員の谷保恵美さん(54)は今季、場内アナウンス担当として30年目になる。ファンからは「殿堂入り候補」とも言われるマリン名物のあの声。まさかのスタートになった節目の年への、思いを聞いた。【取材・構成=金子真仁】

     ◇     ◇     ◇

ステイホームの春。谷保さんも在宅勤務が続いた。開幕を信じて、何をしておけばいいんだろう-。尊敬する巨人の先輩アナウンス担当2人に、話を聞いてみたという。

「声を出すトレーニングとして、腹筋や楽器で喉を鍛えていらっしゃるとお聞きして、さすがだな~、見習わなければ~と」

腹筋運動をやり、気分転換も兼ねて自宅で歌った。歌は好きで、おはこはK-POPにドリカム。

「金曜ナイターからの土曜デーゲームとかだと、声が出ないんですよ。なので、海浜幕張の駅から球場まで歌いながら歩いたり。気分も上げて」

試合中は、いつも傍らにスコアブックがある。ロッテ攻撃時はヒットを願って赤ペンを手に待機し、守備時は黒ペン。29年間で多くのルーティンができて、担当試合は昨季途中に1800を超えた。

野球が好きで、川崎時代のロッテに入団した。

「若い頃は試合に入り込みすぎて、声にも力が入りすぎて、連戦だと声がかれていましたね。今は…大人になりました」

ベンチもフィールドもライトスタンドも見やすい放送室から、冷静に球場全体を見つめて進行する。落ち込む出来事があっても、マイクの前では明るい声が出るように。

節目の30年目は、無人のスタンドから始まる。大観衆が音を吸収しない分、音量目盛りを少し下げ、いつものように放送室の窓をちょっとだけ開ける。

「満員のお客さんっていう光景が当たり前だと思っていました。(今季は)違うんだなと。早く戻ってきてほしいですね。こういう始まりですけれど、千葉で満員のお客さんと一緒に胴上げを見たいなと思います」

マリーンズ、先発ピッチャー、二木康太~。テレビの向こうへ届けと願いを込めて今日23日、海風にいつもの声を乗せる。

◆谷保恵美(たにほ・えみ)1966年(昭41)5月11日生まれ、北海道帯広市出身。90年、ロッテオリオンズに入社、91年から場内アナウンス担当。現在は広報業務も兼務する。