#野球場観戦を待ちわびるファンへ 楽天の本拠地楽天生命パーク宮城はパ・リーグで唯一、本拠での全面天然芝を採用している。

開幕延期中も懸命な管理作業を続け、23日の日本ハム戦で本拠地開幕戦を迎える。寒冷地でたくましく根を張る緑。「球場周辺の今」とあわせてルポする。

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青々とした緑の上を、風が駆け抜ける。太陽の下、全身でその風を浴びれば幸福感がこみ上げてくる。非日常空間である野球場で触れるささやかな一瞬は、ある種、いや最高のぜいたくかもしれない。

4年前、杜(もり)の都に希望の証しが生まれた。本拠地球場の天然芝化は、楽天三木谷オーナーが抱いた夢。左中間部に立てられた観覧車とともに、ボールパーク化推進事業の目玉として実現した。クッション性が高く、ダイナミックなプレーを支える。公園のように緑を味わえる。たかが芝、されど芝。野球場を文化的価値の高い存在へ引き上げる。

寒冷地での天然芝化は、日本では前例がなかった。当時の担当者がメジャーリーグのスタジアムを視察。特に仙台市と同緯度の地区に位置する球場設備を多く回り、参考データとして持ち帰った。

大きなこだわりは2点。1点は芝の品種だ。選ばれたのは「ケンタッキーブルーグラス」。甲子園、マツダスタジアムなど西部に位置する球場は、暖地型と寒冷地型の芝をミックスしているが、寒さに耐えうる西洋芝でまとめた。

2点目は巨大な“床暖房”の導入だ。名称は「サブエアーシステム」。芝の下に潜る配線を通じて温風などを吹き込み、土壌温度・水分量を調節。冬季の育成をコントロールする。16年当時、日本の球場では初導入。楽天野球団ボールパーク推進部の山県大介さんは「土地にあったものを選んでいます。寒い東北ではありますが、芝生と共存できるシステムを構築しています」と言うが…夢を支える労力は並大抵ではない。

練習前後、外野には管理者の姿が必ず目につく。管理を請け負うワタラグリーンの東海林弘樹さんは「プロ野球のホーム球場で寒地型の天然芝を採用しているのは、ここだけ。手間もかかりますし、ものすごく芝生の管理は難しいです」と話す。手入れは365日休みなく、1日6~8時間。地道に芝と向き合う。

足を止めるわけにはいかない。3月30日の球団施設全面閉鎖後も、最少人数、最短時間で管理を続けた。検温、体調チェックを毎日行い、所要時間を2割減。約4時間半程度の制限下で整備に取り組んだ。山県さんは「いつ何時もどうなろうが、選手が一番いいグラウンドの状態で使ってもらえるような体制を常に考えてやっていました」。担当、管理者のプライドで有事を乗り越えた。

6月23日。ついに本拠地での公式戦が始まる。まだ歓声は届かない。それでも大きな1歩を踏み出す。「天然芝の管理は子どもを育てるような感じ」と笑う山県さんは「人工芝では見られないダイナミックなプレーを見てほしい」。東海林さんは「風が吹いた時の天然芝独特の自然のにおいを楽しんでほしいです」とファンへ思いを込める。夢の空間が、いよいよ動きだす。まず選手を迎え、もちろんファンを待っている。【桑原幹久】