ビッグな男が、大きな仕事を完了した。球界日本人左腕最長身の193センチを誇る2年目の弓削隼人投手(26)が日本ハム打線を6回2/3、3安打無失点と封じ、今季初登板初勝利を挙げた。

最速143キロながら緩急自在に翻弄(ほんろう)。スタンドに掲げられた応援タオルの少なさに発奮? した左腕が、本拠地開幕投手の役目を果たし、チームは首位を守った。

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弓削が、でっかい体を少し丸めた。「軽い冗談から用意までしてもらって…。申し訳ない気持ちもあったので返せてよかったです」。選手名入りタオル約3000枚が並んだ内野スタンド。球団グッズ購入者が4000円ごとに1選手の掲出を希望できるが「弓削」タオルは4枚のみだった。登板前日の「もうちょっとあっても…」との発言を聞いた球団職員が、タオルデザインの横断幕5枚を急きょ製作。試合前の本拠地開幕セレモニー時に三塁側バックネットに掲出された。

そんな小粋なエールに奮い立ち、堂々と立ち振る舞った。最速143キロながら直球は球威十分。カーブ、フォーク、新球シュートなど1球1球丁寧に。左右高低を間違えず、外野への飛球はわずか5。「自分のスタイルで抑えられた」とコツコツ打ち取った。日本ハムの4番中田は2回はカットボール、4回はカーブで空振り三振。強打者にも物おじしなかった。7回途中で93球。目安の100球手前で伊藤投手チーフコーチから尻をたたかれた。

涙ぐましい工夫で巨体をケアする。疲労回復のため入浴を心がけるが、新型コロナウイルスの影響で遠征時の宿舎の大浴場は使用不可。自室に備え付けの浴槽ではサイズが足りず、全身を十分に温められない。それならとひらめいた。半身浴が可能なほどの湯を張り、下半身、上半身と2度に分けて漬かる。上半身を漬かるときは寝そべる姿勢になり、当然足は浴槽から飛び出す。「やっぱり入浴剤は炭酸系の『きき湯』ですね」。伊藤コーチから「富士山よりデカイ」とも言われた体と心をともに癒やし、好投につなげた。

本拠地開幕、同一カード6連戦の頭を担う大きな役目に結果で応えた。「自身初登板でホーム開幕だったので少し不安はありましたけど、何とか役目は果たせたかなと思います」。謙虚に、低姿勢に、最後は少しだけ胸を張った。【桑原幹久】

▽楽天伊藤投手チーフコーチ(弓削に)「とにかくストライク先行がよかったし、とにかくデカイ」

▽楽天三木監督(弓削に)「今季初登板でタフな投球だったと思う。かわして逃げることなく、強い球で打者へ向かっていけたことが非常によかった」

◆弓削隼人(ゆげ・はやと)1994年(平6)4月6日、栃木県生まれ。佐野日大-日大-SUBARUを経て、18年ドラフト4位で楽天入団。昨年4月4日の日本ハム戦でデビュー。2戦目の7月30日日本ハム戦で完封し、プロ初勝利を挙げた。1年目は8試合に投げ3勝3敗、防御率3・74。193センチ、105キロ。左投げ左打ち。今季推定年俸1350万円。