歴史に確かな足跡を刻んだ。巨人戸郷翔征投手(20)が6回2安打無失点の好投で、リーグトップタイの3勝目を挙げた。高卒2年目以内で開幕ローテーション入りし、開幕から3戦3勝は、2戦2勝の桑田真澄を超え2リーグ制以降では球団初。今季初登板、初勝利を挙げた6月23日に続き、これで広島戦2勝目。昨季チームが10勝14敗1分けと唯一負け越した相手にもびくともしない「コイキラー」の活躍で、チームは首位をキープした。

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試合が終わり、再びグラウンドに足を踏み入れると戸郷は桑田を超える3戦3勝の喜びをかみしめた。「大先輩に少しでも近づこうと思っていた。もっともっと近づいていけるように。頑張っていきたい」と浮かれることなく、地に足を着けた。

試合前にはまた雨が降った。先発予定だった7日阪神戦、10日ヤクルト戦と2試合連続雨天中止。中14日のグラウンドも湿っていたが「そんなに悪くなかった」と、長い足で踏み込んだ。初回先頭のピレラを137キロのスライダーで空振り三振に切ると5回途中まで無安打投球。5回2死から田中広に初安打となる三塁打を浴びたが、続く代打長野をスライダーで投ゴロに打ちとり、ピンチを脱した。

偉業を支えた源は、下半身の屈強さだ。肘を伸ばしたまま腕を振る独特でダイナミックなアーム式投法は、強い球を投げ込める半面、テークバックが小さい投手と比べてコントロールが難しい。だが操れるだけの下地が備わる。宮本投手チーフコーチは「体は細いんだけど、走る能力とかはたけてるのよ。細いけどパワーはある」と分析する。

下半身を育む走る力は宮崎・聖心ウルスラ学園時代の坂ダッシュで培った。野球部グラウンドは小高い丘の上にあり、300メートルほどの曲がりくねった坂道を上る必要があった。ダッシュと自転車で交互に駆け上がり、戸郷が「(自転車で)止まって足を着いたら、もう1本」という忘れられない練習の1つだ。今も登板間の調整時に走り込みを欠かさず、雨にも、チームが苦手とする広島にも負けない、土台を磨き上げている。

釣りが趣味の20歳の青年は、コイを相手に早くも今季2勝目を釣り上げた。前回先発も昨年1勝6敗と苦しんだ“大物”K・ジョンソン。試合後、原監督から声をかけられた。「『ジョンソンに2回投げ勝ったのはすばらしいこと』と。勝ててよかった」。1歩1歩踏みしめ、上を目指す。【久永壮真】

▼高卒2年目の戸郷が開幕から3戦3勝。巨人で高卒2年目以内に開幕3連勝は87年桑田以来、33年ぶり。3本柱と呼ばれた槙原、斎藤雅、桑田の3人は全員高卒2年目に開幕3連勝以上したが、登板3試合目までは槙原2勝、斎藤雅0勝、桑田2勝。高卒1年目の66年に開幕13連勝、2年目の67年に開幕8連勝した堀内も3試合目までに3勝はしておらず、2リーグ制後の巨人で高卒2年目以内に「開幕3戦3勝」は戸郷が初。