早朝の広島空港。藤井聡太七段が史上最年少でタイトルを獲得したニュースを目にした巨人原辰徳監督(61)は「17歳だもんな」と目を見開いた。「将棋は人生の縮図なんだよ。いろいろな意味で勉強になる。相手のことを読むから。考えたりするから」。常に展開を読み、次の一手に思考を巡らせる。「オレは強いよ」と言って笑う腕前は、決して野球と無縁ではない。

試合中盤に雨が強まる予報の横浜スタジアム。1回から試合を動かした。無死一塁、2番坂本の初球にバントの構えで揺さぶる。結果中前打で無死一、二塁とすると、3番丸も2球連続でバントの構えを見せた。「天気予報が良くないのは分かっていたわけだから、最初に1点を取りにいこうと」。天候も読み、先手を打つ。丸の犠打は失敗に終わったが、指揮官のメッセージはチームに伝わった。

将棋との出合いは小学校時代。相手は父貢氏だった。「最初は飛車、角抜きからやって、五分五分でやって」と懐かしむ。現役時代は、試合前にロッカールームで将棋盤を囲んだ。持ち時間30秒の早指しが基本。選手の人柄も感じ取った。「江川さんは強かった。3回に1回くらいしか勝てない。ミスターも強かったという話だけど、やった人は誰もいない」と笑った。

広島からの移動ゲームはベテラン中島を先発から外した。22試合で21通りの打線を組む理由は、競争意識を生むためだけではない。「全体で戦う意識を持たないとケガ人が出る。ケガ人が出てから考えるのではなく、出さないように」。過密日程が続く大局を読み、計算し尽くした一手を選択。「出された方も、引っ込められた方もウィンウィンとなるのがベスト」と常に五感を研ぎ澄ませている。

天気予報通り、チームは6回コールド勝ち。「こういう形で勝ちがついたのはジャイアンツにとっては幸運ですね」。野球も将棋も、勝負ごとには欠かせない運も味方に、ウィンを積み重ねていく。【前田祐輔】