甲子園が藤浪劇場と化した。阪神藤浪晋太郎投手(26)が広島戦で今季初登板初先発した。快投一変、6回ピレラに逆転満塁弾を浴び、7回途中4失点、6四球で敗戦投手。新型コロナウイルス感染での一時離脱、遅刻による2軍降格など紆余(うよ)曲折を経て、19年8月1日以来の1軍マウンドだった。チームの連勝は5で止まり勝率も5割に戻ったが、昨季1試合登板に終わりプロ初の未勝利となった男の復活ストーリーが始まった。

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藤浪は息をのんだ。目を見開き、飛球の行方を追った。白球は無情にも右翼ポール際のフェンスを越えた。息をフーッと吐き出す。受け入れがたい現実に、そのまま思わず目を閉じた。

「何としても自分自身で勝ちを呼び込まないといけなかった。今日一番のターニングポイントで粘りきれず、もったいない投球になってしまいました」

激しく悔いたのは2点リードの6回、変わり身に割れんばかりの拍手が降り注いだ直後だった。

1死一塁から3番堂林、4番鈴木誠に2者連続四球を与えた。1死満塁。5番松山に3ボールから3球連続でストライクを投じ、外角低め154キロで見逃し三振を奪った。メガホン音が響き渡る中、2死満塁。6番ピレラへの2球目、外角154キロを今度はハードパンチされた。逆転満塁被弾。悔しさのあまり右太ももを強くたたいた。

3月下旬に新型コロナウイルスに感染して出遅れた。5月下旬には練習遅刻が理由で2軍落ちした。357日ぶりの1軍マウンド。直近の2軍戦ほど制球が安定しなかったのは致し方ない。甲子園独特の緊張感。侍ジャパン4番の鈴木誠にリーグ首位打者堂林らが待ち構える重圧。この2つに3月以降の経緯が加われば、力むなと言う方が酷だ。

1回は1死一、三塁から同学年の4番を154キロで詰まらせ、遊ゴロ併殺に仕留めた。2回からの4イニングは無安打投球と安定させた。ついに663日ぶりの白星か。機運がピークに達しつつあった6回、勝負どころで力みを制御できなくなった。自身4年ぶりの満塁被弾に泣いた。

どん底からの復調気配は間違いない。最速156キロの直球は強さを取り戻しつつある。ただ、引き分けを挟んだチームの連勝を5で止め、6年ぶりの6カード連続勝ち越しも幻にした事実が何より悔しい。

矢野監督は「晋太郎らしく腕を振って投げてくれた。(6回は)勝負にいった結果なので仕方がない」と納得した上で、再チャンスについて「もちろん先発させる」と明言した。次回は30日の敵地ヤクルト戦となる見込み。今度こそ、復活を仲間と分かち合いたい。【佐井陽介】

▽阪神福原投手コーチ(先発藤浪について)「久しぶりの1軍の甲子園のマウンドで緊張感もあっただろうし、その中で結果的に負けはしたけど、あそこまで投げてくれたというのは次につながる投球だったと思います」

▼藤浪が満塁本塁打を打たれたのは3度目。14年4月8日DeNA戦でのブランコ、16年8月30日での中日杉山以来。

▼今季チームでは、能見が6月30日中日戦で7回アルモンテに喫して以来、2本目。