何かが変わる予感が、表情を和らげた。0-0の6回2死一塁。広島の4番鈴木誠也外野手(25)は、中日松葉の浮いたチェンジアップを豪快に振り抜いた。高く上がった打球はセンターバックスクリーン右に着弾。珍しく笑顔でダイヤモンドを1周すると、本塁で迎えたピレラと手裏剣ポーズ。ベンチで迎えるチームメートにはパンチの連打で祝福に応えた。笑顔の7試合ぶり9号2ランが、試合を決める1発となった。

強引に振り抜いた打撃を「適当です。はちゃめちゃです」と振り返った。中日先発松葉に2打席目までタイミングが合っていなかった。2回の1打席目は1球を振らずに3球三振。4回の2打席目は初球を引っかけて遊飛に倒れた。迎えた3打席目は「開き直り」で臨んだ打席だった。佐々岡監督は「あそこで4番の仕事をしてくれた。あれで投手が踏ん張って、いい勝ち方ができたと思う。誠也も意地があったと思う」とたたえた。

9試合連続安打で打率3割5分としながら、本人の中では、調子は良くない。試合前練習では特打を行い、打撃マシンの1メートル前に立って感覚を取り戻そうとする姿勢が見える。数字ではない。ただうまくなりたいという向上心。昨オフも忙しい合間を縫ってトレーニングするため、一般客も利用する低酸素施設を利用することもあった。

下位に沈むチームとともに主砲も苦しんでいた。「その中で何とかしないといけないというのが、(試合に)出ている人間の責任だと思う。今はとにかく我慢で、四球でも、1日1本でも何とか粘り強く出せれば」。打席の中で考え方を変えながら臨み、ようやく3打席目に1発が生まれた。「どこかでこうやっていろいろ考えて打席に立つことで、吹っ切れるときがくるので、それが今日の本塁打だったのかな」。チームを最下位から浮上させるアーチは、鈴木誠自身も復活の1発となった。【前原淳】