愛娘に初のウイニングボールをプレゼントする。巨人今村信貴投手(26)が、7回1失点の好投で2勝目。先発陣では1日の田口を最後に、菅野、戸郷以外に白星がなかったが、28日ぶりの勝利を挙げた。戸郷、直江ら高卒2年目の20歳が頭角を現す中、高卒9年目左腕が意地の投球。昨年12月に長女の稀子ちゃんが誕生した新米パパが、マウンドで父の威厳を示した。

沼田から手渡されたウイニングボールを今村は大事に握りしめた。7月17日のDeNA戦で今季初勝利を挙げたが、6回降雨コールドで勝利球は行方不明に。「次こそは」と誓った雨の横浜から43日。7回1失点の好投で、長女稀子ちゃんに初めて贈ることができた。

デジタルが当たり前の中で生まれてきた「Z世代」が注目される中、巨人の先発陣も戸郷、直江ら高卒2年目が台頭。高卒9年目、26歳の左腕は、原監督が「キャリア、経験はある。結果を出す時期」と言ったように、チャンスを与えられる年齢は過ぎた。

新鮮味や勢いはない。ただ、守るべき家族がいる。新型コロナウイルスの自粛期間、2軍調整中。夜はぐずる娘を抱っこして寝かしつけた。なかなか寝ずに夫婦で寝不足となる日もあったが、腕の中で眠りにつく娘に誓った。「パパ、頑張るからね」。

父になって、母百代さんの涙の理由が分かった。

毎年、年末年始は大阪の実家に帰省。別れ際はいつも、号泣する母の姿を見ている。「ほんまに大事に育ててもらった」。感謝し、同じ思いを娘に抱く。「ほんまにかわいくて。子どもはいつまでもかわいくて、その分、心配なんやろなと」と親の涙が身に染みた。

目に見える結果だけを求めた。2軍調整中、プレートの位置を一塁側から真ん中に変更。阿部2軍監督が直々に捕手役を務め、カットボールの球速を速く、曲がりは小さく修正。新たな武器も織り交ぜ、最速146キロの直球で攻めに攻めた。プロ入り最多の126球を投げ、1日の田口以来、先発では菅野、戸郷以外なかった白星を挙げた。

バットでも、パパはかっこよかった。1点を追う2回1死満塁。小学6年時の文集に「イチローみたいになる」と記した男は、ロドリゲスの153キロの速球を左前にはじき返した。「9年目の立場で、ノロノロやっていたらダメ。今日は少し結果が出て良かった」。笑顔で家に帰ろう。家族が待っている。【久保賢吾】