1発の魅力はあるが、三振が多く、打率も低い長距離砲はいる。昨年までの村上も、そういうタイプの打者だった。しかし今季は打率は3割以上をマークし、本塁打も出ている。誰からも文句なしに「ヤクルトの4番は村上」という地位を確立している。この打撃フォームを解析し、進化した村上の打撃を探った。

まず(1)の構えだが、右投げ左打ちの長距離砲らしいスタンスを取っている。軸足(左足)にどっしりと体重を残し、グリップの位置を体からやや離れた位置にキープしている。ボールとの距離を取るため、捕手側の後方気味に位置するのは一般的だが、右打者の長距離砲と比べると、村上はやや右打席方向へ体から離している。これは打ちにいく時に左肘が体の前に入りやすくするためで、その分のスペースを作るためだろう。利き腕ではない左肘を正しく使う上で、理にかなった構えだといえる。

(2)で右足をすり足気味に上げ、(3)で踏み出していっている。この時のグリップの位置を比べると、少しだけ下がりながら(4)の形に移っている。(3)と(4)の中間がトップの形になるのだろうが、トップの形を作る時はグリップの位置が少しだけでも上がっている方がいい。村上はグリップの位置をあまり動かさず、後方に残したまま、下半身だけで「割り」を作るタイプ。しかし、動かないならまだいいが、少しでも下がりながら出てくるタイプは、ボールとの「間」が短くなりやすい。動かすのが嫌でも、下がるのであれば、少しでも上げてトップを作った方がボールを見極める「間」を長くできる。

(5)からインパクトした後の(10)までは素晴らしいのひと言。ベルトのラインに注目すると、(3)と(4)は軸足に体重を乗せるために傾いているが、(5)以降はベルトと両膝のラインが地面とほぼ平行で回っているのが分かるだろう。このように下半身が安定して使えれば、上半身は自由に動かせる。だからバッティングの幅が広がり、打てるボールの範囲も広くなる。

(6)から(7)に移行する形は完璧。(6)では右肩が開かずに左肘が体の前に入っていき、(7)ではグリップエンドからボールに向かって打ちにいく形ができている。打った球は、内角低めの155キロ直球(投手は阪神ガルシア)だが、インパクト直前の(8)まで、バットを体に巻きつけるような軌道で使えている。カウントも1-2。追い込まれている状況で、内角低めの直球を逆方向の左翼へ本塁打するのだから、相手バッテリーに衝撃を与えた1発になっただろう。

インパクト後の(9)と(10)も、ボールの上からボールの下を打ち抜くような軌道で振り抜いている。こうして打ち抜いた打球は強烈なスピンがかかり、上がっても落ちてこないし、ライナーでも伸びる打球になる。(11)でグリップの位置が肩のラインより少し上がっているが、ここが肩のラインと同じぐらいでフォロースルーしていければ、100点満点。グリップの位置が体から離れるように上がってしまうと力のロスにもつながるが、これで逆方向に本塁打できるパワーを村上は持っている。

昨年の村上のスイング軌道はインパクトを最下点にした「V軌道」だった。それが左半身に力をためて打てるようになり、「U軌道」でインパクトゾーンの底辺が広がった。インパクトゾーンが広がれば打率は上がるし、ボールの見極めもよくなる。今後はこれまで以上に内角を厳しく攻められると思うが、それを乗り越え“本物の4番”になってもらいたい。(日刊スポーツ評論家)