難攻不落の絶対的エースを相手に、鬼門でどう戦うか。拳1つ分の空白に、この一戦に懸ける執念がにじみ出ていた。阪神近本光司外野手(25)は普段より短く持ったバットを最短距離で、それでいて強くボールにぶつけた。

「前の打席と同じように、コンパクトにスイングすることを強く意識して打席に入りました」。再び同点とされた直後の5回表1死。巨人菅野の甘く入ったスライダーを寸分狂わず、とらえた。今度は観客も予感があったのだろう。「カンッ」と乾いた衝突音が響いた瞬間、東京ドーム全体がどよめいた。

打球はライナーのまま右翼席中段で跳ねる。プロ初の2打席連発となる勝ち越しソロだ。菅野相手の2打席連発は11球団を見渡しても16年7月28日の広島田中広以来、4年ぶり2度目。阪神では1試合2発すら初となる大仕事をやってのけた。それでも近本は厳しい表情を崩すことなく、ダイヤモンドを回った。ただただ、勝ちたかった。

今季は東京ドームで全敗。前回戦った8月18日からの3連戦は3戦連続完封負けを喫していた。近本自身、試合前時点で今季東京ドームの成績は25打数2安打、打率0割8分。屈辱まみれの数字を塗り替えるためには変化が必要だった。今季10打数2安打と分が悪かった菅野を相手に、バットを短く持った。

初回は先頭で148キロ直球を右前にはじき返し、3番糸原の中前適時打で先制のホームを踏んだ。同点とされた直後の3回2死には150キロ直球を右翼席上段まで届かせていた。14試合ぶりの4号ソロ、そして5号ソロ。一時は勝ち越し弾となるアーチを2度もかけながら、勝てなかった。現実は厳しい。

試合後、矢野監督から「素晴らしい。文句ない打撃でした」と最大限の称賛を受けた。だが、何よりも欲したモノを手にすることはできなかった。今カードは残り2試合。今度こそ、執念を勝利につなげて笑いたい。【佐井陽介】