巨人の長旅が終わり、ライバルとの勝負付けは済んだ。

本拠地での阪神戦に完敗、連勝が9で止まった。12年前の08年、同じ9月。12連勝を記録し、最大13差あった阪神との差を一気に詰め、大逆転優勝の布石としている。データの徹底比較と当時を知る担当記者の回顧から強さの中身に迫る。

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開幕前、今年の巨人がここまで強いと想像した人はいただろうか? 前年の覇者だし、それなりに戦力はそろっている。しかし、オフの補強でFA選手は獲得できず、新外国人もパーラ、サンチェスといったところ。ドラフトでも即戦力ルーキーはいなかった。原監督は「今まで監督をやってきた中で、今年が一番、自信がないな」と笑いながら話していたが、余裕からくる冗談に聞こえなかった。

今思えば、思うように進まなかったオフの補強が本気にさせたのだろう。優勝するために必要な作戦は全部やってやる-。気構えが伝わってくる。エンドラン、ダブルスチールなど、ベンチ主導で繰り出す戦術が多いのは、今更説明するまでもない。伝統球団である巨人では、タブー視されがちな戦略も敢行している。

8月6日阪神戦(甲子園)。11点差で野手の増田大を登板させた。この日も11点差となった時点で、再び増田大に肩を作らせた。

捨てゲームを作らない昔ながらの巨人の野球になじみ、不快な気持ちになった人もいるだろう。主力の休養にしても、ひと昔前は、オープン戦でも主力はスタメンで1打席は打席に立つ考えがあったし、エースは初戦や序盤に先発する規律があった。

開幕から好調で、優勝を意識した“温存作戦”をやりやすい環境が整っていたが、簡単には実行できない。首位にいながらも高梨、ウィーラーといったトレードも敢行。パーラやデラロサの離脱も、暗い影を落とさずに済んだ。なりふり構わず優勝を狙う気概が、用兵や補強にも表れた。

もうひとつ見逃せないのが若いコーチの活躍だ。元木、石井、相川、後藤といった首脳陣が、動きやすいよう配慮している。彼らだけで話し合い、立てた戦略をベテランの吉村コーチが原監督に伝える。近年、選手やフロントに気を使う忖度(そんたく)コーチが多いが、そんな空気はない。

原監督は言う。「チームの“和”を保つには絶対的な実力至上主義が必要」。能力はもちろん、練習態度やチームへの献身を重視し起用する。当たり前のようだが、この見極めが難しい。チームの細部まで見極め、決断する。「責任はすべて監督にある」という言葉は、どのチームの監督も使うが「本当にそう思っているの?」と勘繰りたくなる監督は多い。実績がなければ言葉の重みも違ってくる。20年の巨人は、だから強い。【小島信行】