26日に運命のドラフト会議が行われる。悲喜こもごも…数々のドラマを生んできた同会議だが、過去の名場面を「ドラフト回顧録」と題し、当時のドラフト翌日付の紙面から振り返る。

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<06年9月26日付、日刊スポーツ紙面掲載>

高校生を対象としたプロ野球新人選択会議(ドラフト会議)が25日、都内のホテルで行われ、ロッテから1順目指名された八重山商工の大嶺祐太投手(3年)がプロ入りせず、1年間の浪人生活を視野に入れていることが明らかになった。相思相愛とみられたソフトバンクが1順目指名したが、抽選の末、ロッテが入団交渉権を獲得。大嶺サイドは、ソフトバンク以外の球団が指名した場合を想定した家族会議で「浪人プラン」も考えていた。石垣島の150キロ右腕が、苦渋の選択を下すことになりそうだ。

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その瞬間、大嶺の表情が凍りついた。5時間目の授業終了後、添石邦男校長(59)が、クラスに足を運び「指名があったよ。ロッテから」と一報を伝えた時だった。

ロッテの入団交渉権獲得が決まってから約35分後。大嶺は目を赤くした。第一声は「うれしいです」としたが、本音とは程遠かった。相思相愛とみられたソフトバンクは1巡目で指名したが、ロッテとの抽選の末、交渉権を得られなかった。「予想もしていない球団でビックリしています」。伊志嶺吉盛監督(52)と臨んだ校内での会見の席でも、大嶺は表情ひとつ変えなかった。

幼年時代からプロ入りにあこがれていたが、苦渋の決断をくだすことになりそうだ。伊志嶺監督は「試合に負けたような予想外の結果…」「進学は100%ない。社会人か、1年間浪人するか、プロに行くか、3つの選択肢になる」と話し大きなため息をついた。ソフトバンク小川一夫編成部チーフスカウト部長(51)らが19日に1巡目指名を伊志嶺監督に伝えた。大嶺は監督を交えて家族会議を開き、ソフトバンク以外なら浪人することで1本化。さらに23日、伊志嶺監督は石垣島にいた大嶺を秋季大会中で滞在していた那覇市のチーム宿舎に呼んだ。2日間、2人でとことん話し合い、ソフトバンクか浪人か、今後の進路が二者択一で変更がないことを確認したもようだ。

伊志嶺監督は「大嶺にはプロで勝てる投手になってほしい。2、3年で終わる選手になってほしくない。バックアップしていけるのは私しかいない。応援したいなと思っている。高校が4年あれば心も体も即戦力として送り出せるけど…」。石垣島で1年間の浪人生活を経て、プロに再挑戦させるプランをほのめかした。

会見後、ナインが胴上げを予定していたが急きょ中止となった。大嶺は「目の前に(30日開催の兵庫)国体があるので、それが終わってから、じいちゃんとばあちゃんと監督と相談して(進路を)決めたいと思います」と最後まで慎重な姿勢を崩さなかった。

 

ロッテ・バレンタイン監督が、大嶺を強行指名し引き当てた。静まり返った会場の中で、左手で目を隠し、引いたくじを高々と掲げるパフォーマンス。最後は笠井オーナー代行のくじをのぞき込んで、笑いを誘おうとしたが「実はその前に当たりを確認していた」と余裕の行動だった。

ロッテは希望がかなったが、すぐ入団とはならない現状だ。大嶺がソフトバンク入りを強く希望していた気持ちは知っている。瀬戸山球団代表は「最大限の誠意を見せるしかない」と話す。

国体終了後に交渉が可能になるが、バレンタイン監督は「石垣島がどんなところか知りたいし、許されるならば監督ともお会いしたい」と直接交渉を希望した。「今日にでも行きたかった」という瀬戸山球団社長を含めて、最大限の誠意を見せて招き入れる考えだ。

今年も最後まで指名選手を公表しない隠密ドラフトを貫いた。バレンタイン監督は「我々は一番欲しい選手を取りたかった」と満足そうだった。

▽ロッテ永野スカウトの話(大嶺担当)「新垣投手のファンだと聞いてるし、同じチームでやることより、投げ合うことを目標にして欲しいです。伝えられるのは誠意しかないです」

<浪人すればどうなるの?Q&A>

-来季のドラフトは高校、それとも大学社会人?

A.高校ドラフトは高野連所属選手に限定されるため、大学社会人ドラフトになります。ただし、いずれの野球組織にも所属しない選手は「希望入団枠」から除外されるため、いわゆる逆指名はできません。さらに、今回の分離ドラフトは2年間の暫定実施で、来年は制度が変わる可能性もあります。

-具体的には1年間、何をするの?

A.過去には元巨人の江川卓、元木大介の例があります。77年にクラウンに1位指名された法大の江川はこれを拒否し、母校作新学院の職員という立場で、米南カリフォルニア大学に1年間の野球留学。89年のダイエー1位指名を拒否した上宮高校の元木は、ハワイでトレーニングを続けました。ただ、基本は単独練習で「実力は落ちていると思う。1人でやるのとチームでやるのは全然違うと当時の元木はコメントしています。

<知っ得>

◆ドラフト指名拒否 過去のドラフトで1位(1巡目)指名を拒否した高校生は12人いる。現役では中日福留、ソフトバンク新垣、巨人内海が拒否し、大学、社会人を経て意中の球団に入団した。新垣が沖縄水産時代の98年には、拒否されたオリックスの三輪田勝利編成部長が自殺する事件が起きている。最近の1巡目以外では、昨年のドラフト4巡目指名の福井優也投手(済美)が指名順の低さを理由に拒否。浪人して早大に合格した。大嶺に難色を示されたロッテは、95年8位の大橋晋也捕手(駒大)に拒否されたのを最後に最近10年間の指名選手全員を入団させている。

○…ソフトバンクは抽選に敗れ、2年連続でくじを外した。王監督が胃がんの手術を受け自宅療養中のため、残りクジを引く役目は、笠井和彦オーナー代行が務めた。角田球団代表は「こういう制度なので予想はしていたこと。王監督も大嶺君を高く評価していたが、制度だし仕方ない」と冷静に受け止めた。会議直前にロッテ強行指名の情報を入手し、外れ1位候補を再度、シミュレーション。埼玉栄・木村文和投手ら外れ候補にしていたが、ロッテ・バレンタイン監督が「4巡目で取るつもりだった」という多摩大聖ケ丘・福田を野手の最上位にランクした。

○…ソフトバンクは大嶺の抽選に敗れたことで、王監督の意向を全面的に反映した打力重視の野手補強に乗り出した。報告を受けた王監督は「近年、投手を中心に取ってきましたが、今年は将来の大砲を育てるという方針の下、活動をしてきただけに、いい結果でした。大嶺君を逃したことは残念ですが、将来有望な野手を3人、取れたことは願った通りです」と球団広報を通じて今ドラフトを総括した。

▼1巡目は広島を除く11球団が抽選に参加。1巡目(1位)で11球団が抽選したのは78年(巨人不参加)に江川卓投手(作新学院職員)=4球団、森繁和投手(住友金属)=4球団、木田勇投手(日本鋼管)=3球団が抽選となって以来、28年ぶり2度目。

 

※記録と表記などは当時のもの