楽天涌井秀章投手が、プロ野球史上初となる「パ・リーグ3球団で2桁勝利」をかけ先発する。

初めての2桁クリアは西武時代、入団2年目の06年。当時の記事を復刻する。(所属など当時)

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<西武6-1日本ハム>◇06年8月5日◇インボイス

ウイニングボールをカブレラから受け取った涌井の表情はこわばったままだった。完封目前の9回1死からソロ本塁打を浴びた場面が頭から離れない。お立ち台でも笑顔はなく「悔しい」を繰り返した。それでも、完投で念願の2ケタ勝利に到達。4度もはね返された10勝の壁をようやく破った。「勝ったからいいです」。右翼席のファンにあいさつし、ロッカールームに戻ると、ようやく白い歯がこぼれた。

苦しい場面では、直球の威力を信じて思い切り腕を振った。得点圏に走者を置いた3度のピンチは、すべて直球で凡打に仕留めた。しり上がりに調子を上げ、8回表にこの日最速の147キロをマークした。トレードマークの中袖ではなく、半袖のアンダーシャツを着用して、うだるような蒸し暑さも克服した。

後輩たちに、これ以上ふがいない姿を見せるわけにはいかなかった。今日6日に、史上初の2度目の春夏連覇のかかる母校横浜高が、大阪桐蔭との大一番を控えている。同校が甲子園出場を決めた7月29日の楽天戦(宮城)では逆転サヨナラ弾を浴びているだけに、この日は余計に気合が入った。「後輩への励み? そうなればいいですね。見てくれていたかどうか分からないですけど。差し入れは飲料類を送りました」。試合開始予定時刻は練習の真っ最中。「前の試合が長引いてほしいです」。練習後はテレビにかじり付いて声をからすつもりだ。

試合後に携帯電話をチェックすると、松坂や、西口、帆足から祝福のメールが入っていた。松坂以来となる高卒2年目での10勝到達の重みを、あらためて感じさせられた。「自分では意識しないつもりでしたけど、周りからさんざん言われましたから。7月はまったくいいところを見せられなかったので、8月は自分の月にしたいです」。重圧から解放された涌井は、穏やかな表情で、かつてともに甲子園を沸かせた親友のダルビッシュと食事に出掛けた。【広瀬雷太】