勝利への執念。言葉にすれば簡単だ。それを表現し、結果につなげることが難しい。

ヤクルト青木宣親外野手(38)があそこまで怒りを表に出す姿は、珍しく感じた。0-0で迎えた6回1死一塁、カウント2-2から広島先発森下の低めカットボールを空振り。三振に倒れ、険しい表情で悔しさをあらわにした。バットの先がベンチ前のカバーに当たることも気にせず、バットを強く振った。

チームのこと、勝利への思いをいつも強く持っているキャプテン。常々、後輩たちへ伝えたいこととして口にしていることがある。「勝負どころのプレー、大切になるところを感じないといけない。アンテナを張っていないと。いい選手になるには、勝負どころのプレーが大事になる」。きっと本人の中で、この打席が勝敗を分けるポイントだと感じていたからこその振る舞いだったと思う。勝利への執念を見せた姿に、ベンチから見ていたチームメートは感じる部分があったはずだ。

13点を追いかける8回。攻撃前に、宮出ヘッドコーチを中心に円陣を組んで臨んでいた。イニング間には斎藤投手コーチがベンチを飛び出し、ブルペンで9回の登板に向けて投球練習をしていたマクガフに直接声をかける異例の場面もあった。

さらにこの回には、青木への死球をきっかけに両ベンチが入り乱れた。一触即発の事態となり、球場は不穏な空気に包まれた。その中、死球を受けて途中交代した後もクラブハウスには引きあげず、ベンチに残っていた青木。試合後、足を少し引きずりながら帰るその後ろ姿からも、勝利への執念がにじみ出ている気がした。【保坂恭子】