感謝のカウントダウンが始まった。今季限りで現役を引退する阪神藤川球児投手(40)が15日、ナゴヤドームでの中日戦で引退表明後初めて1軍に昇格した。9回にスアレスが逆転サヨナラ3ランを浴びたことを残念がったが、日米通算250セーブより大切にしているのは、チームに何を残せるか。現役最後のナゴヤドームで登板機会はなかったが、引退セレモニーが開催される11月10日の巨人戦(甲子園)まで、希代の守護神は熱く戦い抜く。

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試合後のナゴヤドームに、温かな拍手があふれた。中日荒木コーチから黄色い花束を受け取ると、藤川はファンが待つスタンドへ駆けて行った。

「もちろん残りの1試合1試合でファンの人たちにも見せたいものもありますけれど、自分自身が1つ1つのこの球場での光景というのを、これがもう最後になるので、かみしめたい思いはあります」。

ライトスタンドの中日ファンから「球児コール」が起きると、マスクで涙を拭うそぶりを見せ、笑顔でおどけた。現役最後のナゴヤドームで登板機会はなかったが、自分のタオルを持って応援してくれた左翼席に静かに一礼。全てを目に焼き付けるように、ゆっくりと球場を一周した。

これまで勝利のため全力を注ぎ、紙一重の勝負を繰り返してきたグラウンド。「目の前のことで必死だったから、試合中に『昔こんなことあったな』とか考える余裕もなかった」。今季限りでの引退を決めた今、さまざまな思い出が押し寄せる。「なんとかこの日に間に合わせて来られたことだけで、選手ってこんなに幸せなんだなというのを感じることができた」。

チームは8回、25イニングぶりの得点で逆転したが、9回にスアレスが高橋に移籍後初本塁打となる逆転3ランを浴びてサヨナラ負け。「スアレスがセーブ挙げて、そのボールもらってサイン書いてもらってね、246個目ですと言いたかったんですけど、でもまた明日からその機会が。本当にそれで250セーブ超えられたら(笑い)。僕は自分の記録は本当にどうでもいいので」。日米通算250セーブにあと5に迫っても、自身の偉業にこだわりはない。チームのために腕を振ってきた守護神の信条だ。

現役22年間を応援してくれたファンへ、この日自身のツイッターも開設した。午前11時半頃には、阪神の寮「虎風荘」の看板を指さす画像を投稿。「18歳で入寮した2軍施設内の寮です。 22年間か… 全ての下積み経験はここにありました。」。若かりし頃に鍛錬を積み、毎年練習始めを行った場所に、まずは別れを告げた。今後は甲子園だけでなく、東京や横浜、広島にも、最後の勇姿を見せに行く。全国のファンとさよならのあいさつを交わし、11月10日巨人戦で完全燃焼へ向かう旅が始まった。【磯綾乃】

○…阪神藤川は先に現役を引退した中日の戦友たちにも思いをはせた。「(花束をいただいた)荒木さんも引退試合で甲子園で投げさせてもらったし、タイロン・ウッズの通訳さんから『ウッズがよろしく言ってたよ』という言葉を聞いたり」。セーブ王を争った岩瀬仁紀氏とも顔を合わせ、引退試合に顔を出すと話していたという。「ほんとにドラゴンズさんに感謝やし、ファンの方に感謝やし」と思いは尽きなかった。