直人さんのために- 楽天岸孝之投手(35)が、渡辺直人内野手兼任打撃コーチ(40)の引退試合に花を添えた。CS争いを繰り広げる西武を6安打2失点。9回は遊撃の守備についた渡辺直の好守にも助けられ、123球の熱投で今季2度目の完投勝利。無傷の7勝目を挙げた。試合後の引退セレモニーでは花束を手渡し、節目の日に恩を返した。

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苦しい時も振り返れば、直人さんがいてくれた。9回無死一、三塁。岸が西武栗山の打球に飛びついた。届かない。それでも、この回から遊撃の守備についた渡辺直がワンバウンドでつかみ、遊ゴロ併殺。ピンチを救ってくれた。123球。マウンドを守り抜いた。「最高です」。何が何でもほしかったウイニングボールを、自らの腕でつかみとった。

グラウンド外でも、頼りにできる先輩だった。西武で4年、楽天で3年間ともにプレー。「いろいろなことがありました。公私ともにいろいろとお世話になって、相談にも乗ってくれました。心の支えになる、兄貴みたいな存在でした」。

だからこそ、晴れの日のマウンドを譲るわけにはいかなかった。試合前、渡辺直が「1番DH」でスタメン出場を知り、心に誓った。「直人さんが守りにつくまで投げようと。9回と聞いていたので、そこまで投げようと最初から思って試合に臨みました」。11月の仙台の夜。染みる寒さも意に介さず、初回から両隅へ球を通した。7回を投げ102球に到達も関係ない。9回に1失点、衰え知らずの球威を誇示し、山賊を黙らせた。

チームの4位は確定したが、今季最終登板を白星で締め、CS争いを混沌(こんとん)とさせた。涌井に次ぐ、チーム2位の7勝を無傷でマークした。試合後、渡辺直の引退セレモニー。銀次とともに花束を渡し、記念撮影に収まった。有言実行で、心に残る1勝を恩人へ送った。【桑原幹久】