日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。

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初冬に思い出すのは、自宅の庭に咲いた山茶花(さざんか)だ。別荘から業社さんに運んでもらった2本の木は、この季節になると赤と白の立派な花をつける。

コロナ禍が収束しないまま師走に入った。阪神では1日付で、球団オーナー(電鉄本社会長)の藤原崇起が、球団社長を兼任し、その職務にあたる大きな動きをみせる。

最近の一般企業で会長が再び社長に就く人事は珍しくない。業績を回復させることを目的にワントップ制で再び経営スピードを加速させる。ただ今回の阪神の新体制は意味合いが違う。

チーム成績は2位に上昇した。しかし、選手、スタッフに複数の新型コロナウイルス感染者をだした論外のいきさつが、安心・安全を掲げる阪急阪神ホールディングスのダメージになった。

前任者の揚塩健治が引責辞任を発表したのは10月9日だ。後任が決まった上での公表が通例だが、ここに至るまで“空白”だったのは紆余(うよ)曲折があったからだろう。

阪神は18年に前監督の金本知憲が契約年限を残していたにもかかわらず事実上の解任に踏み切った。最下位転落もあったが、どこからともなく“天の声”が舞い降りた。

それは「お家騒動」をほうふつさせる大どんでん返しだった。オーナーが社長を兼務することで、果たして金本解任にあったような複雑怪奇な監督交代劇は消えるのだろうか。

今回の人事が固まった際、あくまでも藤原は“つなぎ”という見方をしていた。しかし、自らが強調する「現場」での陣頭指揮を信じるなら、本社-球団-現場の三位一体は好意的に受け止めたい。

現場主義の藤原が描くタイガースの将来ビジョンを問うてみたい。チーム編成の方向性もうかがってみよう。鳴尾浜からのファーム移転は尼崎が最適なのか。3軍制の是非は…。

あの首のすげ替えから続けざまのV逸だった。異例人事が目玉になる新体制の船出。最終契約年になる監督矢野と同じで、“一人二役”の藤原にとっても大勝負になる。(敬称略)