西武の今季開幕投手は、高橋光成投手(24)に決まった。宮崎・南郷キャンプ最終日の21日、辻監督が明言した。昨季8勝、西武の伝統を継ぐ本格派右腕のドラ1が初の大役を務める。あと3人でノーヒットノーランを逃すも、その能力を十二分に知らしめた昨季の1安打完封劇を復刻する。(年齢、所属など当時、一部加筆)

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<西武2-0オリックス>◇2020年9月8日◇メットライフドーム

レジェンドユニホームの背番号「13」を背負った西武高橋光成投手(23)が、9回にノーヒットノーランを逃しながらも、被安打1で初の完封勝利を果たした。8回までオリックス打線を無安打投球。9回先頭の西野に中前安打を許した。同じ13番を背負い、9回2死から打たれた経験が2度もある西口投手コーチのリベンジとはならなかった。それでも後続を断ち切り5勝目を挙げ、次期エースの風格を漂わせた。

あのユニホームで、あの13番にとって、鬼門の9回。高橋光はノーノー達成の機運を必死に押し殺した。迎えた25人目。先頭西野へカウント1-1から低めのフォークを中前へ運ばれ、マウンドでしゃがみ込んだ。「9回入る前から、すごい『いけるんじゃないか』という気持ちが出てきてしまって。必死に抑えていたんですけど、やっぱり出てきちゃいました」。それでも後続を断ち完封勝利を挙げた。

黄金時代を築いたレジェンドユニホーム。かつての13番、西口投手コーチから9回の前に言われた。「2アウトまでいけよ」。02年と05年に9回2死からノーノーを2度逃していた“先輩”。その姿を高橋光は「もちろん知っています。YouTubeで見ました。2アウトまでは何とかいきたかったですね」。西武が誇る本格派右腕の系譜をここでも、受け継いだ。

甲子園Vのドラ1投手として、エース候補と呼ばれ6年目。ローテを守った昨季、初の2ケタ勝利で柱の1人と期待された。しかし今季は安定感を欠いた。ベストを尽くす一方で、打者研究に動いた。

栗山、中村の両看板から打者心理を直接聞いた。「こういう風に待っている、ピッチャーが考えていることと、打者が考えていることは違うなと分かったので、すごく勉強になります。知っているのと知らないのでは違う。投げたボールにも伝わる」。前回も7回1安打無失点。結果に結びつけている。

直近10試合は7勝3敗。最大8あった借金は3まで減らした。試合後、リリーフ陣からは「1ヒットTシャツ」をつくろうと呼びかけられた。上昇ムードを生む快投。夏の逆襲は山賊のおはこ。1カ月遅れの逆転劇が、もう始まっている。

▼西武高橋光がプロ入り初の1安打完封勝利。完封は15年8月23日ロッテ戦(6安打)16年5月26日楽天戦(3安打)に次いで4年ぶり3度目。9回無死から代打西野に初安打を許した。9回以降の初安打でノーヒットノーランを逃したのは、涌井(楽天)が8月5日ソフトバンク戦で9回1死から代打川島に許して以来。西武では13年6月12日中日戦の菊池が9回1死から大島に打たれて以来になり、高橋光と同じ背番号13だった西口(現投手コーチ)は9回以降の初安打で3度も快挙を逃している。

<とっておきメモ>

胸の内に熱いハートを秘めた男だ。17年オフ、野球教室にいく道中だった。自家用車が煙を出して横転していた。高橋光は同乗していた同僚とともに駆け寄った。まずはドアを外しエンジンを切った。意識がもうろうとする運転手を、車からゆっくりと救出。高橋光は回想しながら「運転免許をとったときの講習とかを思い出しながらでしたね」。近所の住人に呼びかけ、用意された毛布で包んで固定。救急車が手配されたことを確認し、その場を託した。

目の前で突如起こった危機的状況に、瞬時に反応。「もう必死でした」と振り返るが、焦る気持ちを抑えながら頭は冷静に、そして的確に処置を施すことは、決して容易ではない。そして月光仮面のごとく立ち去る潔さ。マウンドで打者と対峙(たいじ)しピンチを迎えても、9回にノーノーを逃しても、“火消し”に徹する姿勢は、いつも同じ。「今日みたいなピッチングがずっと、多くできるようにしたい」。マウンドでの救出劇はまだまだ続く。【西武担当=栗田成芳】