不細工でもいい、勝ちたい-。阪神藤浪晋太郎投手(26)が22日、日刊スポーツの開幕直前インタビューで大役に懸ける覚悟を語った。

プロ9年目で初の開幕投手を通達されてから今に至るまでの心境の変化を吐露。ここ2年間で1勝しかしていない立場での抜てきを「宿命」と受け止め、開幕戦の3月26日ヤクルト戦(神宮)で泥臭く腕を振る。【取材・構成=佐井陽介】

  ◇   ◇   ◇

それは珍しい言い回しでもあった。藤浪はプロ9年目で初先発する開幕戦に向けて「勝ちたい」と言った。これまで常々「勝ち負けは時の運もあるので…」と繰り返してきた男が、だ。

「形がどうであれ、勝ちたいなという気持ちがあります。どれだけ不細工でも、どれだけ四球を出しても、どれだけ打たれても、粘ってなんとか6回3失点とかでもいいので、勝ちたい。シーズンを長いスパンで見れば、7回2失点ぐらいでようやくいいピッチングができたと思うのでしょうけど、自分が乗っていきたいという意味もある。開幕戦でポンと1つ勝ちがつけば、どんどん乗っていけるような気がするので」

自分がコントロールできない要素さえも強引に引き寄せ、何が何でも勝利をもぎ取る。覚悟を決めた末の決意表明にも聞こえた。

3月7日、矢野監督から大役を通達された。

「正直ビックリしましたし、言われた瞬間は『なんで自分が』という気持ちがすごくありました。自分が開幕投手なんて、本当に1%も考えていなかった。絶対にないと思っていた。解説者やOBの方々が『藤浪開幕』と言ってくれていても、リップサービスだと思っていた。もし本当に西(勇輝)さんが(ぜんそくの影響で)開幕戦に間に合わなくても違う人がやるんだと思っていましたし、そんな中での急な指名だったので…。驚きと戸惑いが最初でした」

当初、開幕投手の大本命は大黒柱の西勇だった。他にも昨季11勝の秋山、2年連続規定投球回到達の青柳もいた中での抜てき。指名を受けた直後は、実績組の先輩たちに対する申し訳なさもあったという。

「今でもそれはあります。西さんはもちろん、秋山さん、青柳さんもいる中で、2年間で1勝しかしていない自分が、というのが正直…。個人的には、開幕投手は近年結果を出している人がやるモノだと思っていた。そういう意味ではちょっと筋が通らないじゃないですけど、そういうルートからは外れるなと思ったのが正直なところでした」

それでも首脳陣の期待を言葉で直接受け取り、腹をくくった。今は前向きな感情だけが心を支配する。

「決まった以上はやるしかない。そこに向けて、いかにいいパフォーマンスを出せるか、どう投げられるかに集中するべき。自分はそういう立場なのかなと、あえて思うようにしました。自分で言うのもなんですけど、ある意味、宿命なのかなと考えて…。そういうところに投げていかないと自分は強くはなれないんだと、そう思うようにしています。エースは西さんだと監督も言っていますし、いきなりエースになれと言われているわけではない。そこまで重くとらえすぎずに行こうかなと思っています」

矢野監督から受け取った言葉で、少し楽になれたのかもしれない。「開幕だからと気負いすぎず、ブルペンや試合でやっていることを表現してくれたらいいから」。もともと人一倍、チームを背負い込む性格。責任感が力みにつながらぬよう、開幕戦ではあえて自然体を大切にするつもりだ。

「世間の皆さんも感じているとは思いますけど、自分の開幕投手というのはある意味、一種の賭けみたいなところもあるのかもしれない。ただ、個人的にはローリスクハイリターンな賭けなのかなと思うようにしています。勝てば盛り上がるだろうし、勝ったら乗っていけるやん、ぐらいの気持ちで。自分はディープインパクトみたいなガチガチな本命ではない。勝てば大金星、ぐらいの気持ちで行こうと思っています」

開幕投手。藤浪がプロ入りした13年以降は能見、メッセンジャー、西勇が大役を務める姿を目に焼きつけてきた。「自分の中では能見さんのイメージが強いですね」。尊敬する大先輩の立ち居振る舞いに感銘を受けつつも、自身は開幕投手に対する欲が「ぶっちゃけ、あまりなかった」と言う。

「まだ1度も投げたことがないのに、偉そうなことは言えないですけどね。15年の春にも開幕投手があるんじゃないかと言われた時がありましたけど、当時もメッセが開幕に投げるとなって、どうぞどうぞという感じでした。個人的には、その時々でチームが一番うまく回る方法を取ることが大事だと思う。だから、自分が開幕に投げたいとか投げたくないとか、そういう感情はなかったんです」

チームが勝つために、優勝するために。そういう観点で見れば、今回の大役抜てきに応えたいという気持ちはさらに強くなるだろう。開幕投手藤浪がハマれば、週明けのG倒、C倒に向けてあえて火曜日先発を託す西勇の負担を減らすことができる。同世代の大山、近本たちと強いタイガースを作ってくれ-。指揮官の熱い願いも力に変える。

「別に(大山、近本ら)同学年の選手同士でそんな話をするわけじゃない。『オレらの世代で頑張ろうぜ』と話すわけでもない。ただ、多分おのおので持っている思いはあると思います。それは自分たちの世代だけじゃなくて、ですけど。特に今年はベテランの方々が一気にいなくなって世代交代だと言われているタイミングなので。上の人たちがいなくなった分、やっぱり自分たちがしっかりしなきゃという思いはそれぞれ持っている気がします。それは行動だったり、発言だったり…。自分の“同級生”も含め、先輩も後輩も、若手みんなもそんな感じでやっているようには見えます」

もちろん、自身の感情にも変化は生まれている。

「しっかりしなきゃいけないなとは思っています。後輩も増えてきましたしね。自分は言葉で引っ張ったりハッパを掛けたりすることが、あまり上手じゃない。日頃はどちらかというとだらしない人間なので、あまり人のことを注意したりはできないですけど(苦笑い)。たとえば練習に対する取り組み方にしても、ランニングの1つだったり、そういうところで見せていければいいかなと思っています」

21年3月26日、再び「エース道」を走りだす。