優勝目前の阪神に衝撃が走った。「もの言う投資家」として知られる村上世彰氏率いる「村上ファンド」が阪神電鉄の筆頭株主になったことが27日、明らかになった。ファンド側は投資目的としているが、電鉄の完全子会社である球団への影響力も持つことになる。この日、阪神電鉄では手塚昌利オーナー(74=電鉄本社会長)ら本社役員が緊急会議を行った。昨年はライブドアの近鉄買収騒動が起こったが、巨人に代わって「球界の盟主」を目指す阪神タイガースにとって優勝決定直前に思わぬ騒動だ。

 

村上ファンドが阪神電鉄株を大量購入して筆頭株主になったことが明らかになったこの日、大阪市福島区の本社は慌しいムードが流れた。手塚オーナーらが事実確認を急ぐとともに、本社役員らが緊急会議を持った。虚を突かれた格好の一大事。今後経営はどうなっていくのか…。通常の帰社より1時間も遅い午後7時前、多数の報道陣の前に姿を現した手塚オーナーは「この件は広報が対応します」と口をつぐんだが、「狙いが分からない」と本音もこぼした。

村上ファンド側の出方は不明だが、何しろタイガースという“超優良子会社"もある阪神。電鉄株の1/3近い26・67%を取得されたことは経営側としては顔色をなくす出来事ではある。

オーナーに代わって応対した黒木敏郎広報部長(44)は「正直、驚いております。ただ、あくまで阪神電鉄の企業価値を高める純投資であって、乗っ取りとかそういう目的ではないと認識しています。第3者に売却するとか、買戻しするとかも想定していません」と説明した。ただし企業防衛の点については「株式の売買高が膨らんでいたので投資化の大口買いが入っているのかなと思っていた。テクニカルなことは行っていなかった」と明かした。

気になるのはタイガースへの影響だ。関西出身で阪神ファンとされる村上社長が、阪神球団へ役員を送り込む可能性もある。例えば監督人事、選手雇用問題などにも深く関わることも考えられる。この件について黒木部長は「ご意見は提案されるかも知れませんが、従来の経営陣でやっていくのが基本と考えております」と影響の少なさを強調した。だが、これは村上社長のみぞ知るところだ。

現場も困惑を隠せない。何といっても明日にも優勝という、大事な時期にボッ発した騒動だ。岡田監督はこの日の甲子園で「そういう話があるらしいことは、球団からは日曜日(25日)に聞いていた。きょうの新聞に載るかもとも思ってたけど、詳しいことは何も分からん」とコメント。複雑な表情を浮かべるしかなかった。

とにかく“想定外の事態"で優勝に水を差すわけにはいかない。フロントは沈静化に躍起だ。阪神球団の牧田俊洋社長(55)は「今のところ、我々には関係のない話と思っています。優勝にまっしぐらに突進して欲しい」と力説。さらに「こういうことが起こっても、目的は変わらない。ファンに喜んでもらえるよう、いつものように試合に勝ってもらうだけです」とナインに訴えかけるように話した。

今年は星野SDの巨人監督就任騒動もあったが、今度は優勝目前に本社乗っ取り騒動。弱ければ騒がれる阪神だが強ければ、強いで“騒動"は避けられない。

 

 手塚オーナーは「村上ファンド問題」には言葉少なだったがチームの話題には口調も滑らかだった。優勝が決まる試合はネット裏で観戦予定。「(2年前は)待って優勝したが、今年は勝って決めてほしい。甲子園で巨人戦。舞台としては最高ですね。ファンの皆さんも喜んでくれると思う」。きょう28日からの巨人2連戦(甲子園)の胴上げを厳命した。

 

〇…村上ファンドが阪神電鉄の筆頭株主になったことを受け、市場関係者の間でも様々な憶測が飛び交った。かつて大阪でディーラーをしていた経験もある中堅証券マンは「今までにはない状況で、今回の動きは我々にとっても全く謎です。それほど魅力のない今の阪神電鉄にここまで買いにくる理由が分からない」と驚いた。村上ファンドが鉄道会社の株式を購入するのは初めてだといい「土地などの含み資産を目的に買うなら近鉄や東京の鉄道会社を買うはずだが」と話した。

また別の証券マンも「今回は優勝に向けての上昇に絡めた仕手の可能性が高く、長期保有はせずに短期で売り抜けるのでは」と分析。村上氏は大阪出身で、かつて阪神ファンと言われたこともあったが「彼は忙しいから球団のオーナーになろうなんて気はないと思う」と話していた。