入場制限で、この夜の観客は7206人。だがその瞬間、寂しさを感じさせない大きな拍手が起きた。視線の先には阪神大山悠輔内野手(26)がいた。3点ビハインドの4回2死走者なし。DeNA先発坂本の7球目スライダーが高めに浮いた。引っ張り込むと、打球は放物線を描き、左翼スタンドへ着弾。「自分のスイングができて良かったです」。球場表示で打球速度165キロ、飛距離129メートルの3試合ぶりアーチ。だが表情は一切変えず、黙々とダイヤモンドを1周した。

常々「チームの勝利のために」と口にする。その思いを体現するため、こだわるのは打点だ。開幕10試合で3打点。ただ、そこは昨季85打点でリーグ3位だった男だ。15日広島戦(甲子園)で今季初本塁打を放つと、上昇気流に乗った。15日から7試合連続安打で9打点の荒稼ぎ。計18打点はヤクルト村上、DeNA牧と並び、いつの間にかリーグトップタイに並んだ。

4戦3発。今季は5年目で自己最長、開幕から67打席ノーアーチだったが、昨季28本塁打の4番が量産態勢に入ってきた。だが矢野監督は「もちろん、ホームランは悠輔(大山)も高いところを目指していると思う」と前置きした上で、こう注文を付けた。「ランナーを置いたところで、どうかえすかというバッティング。甘い球を仕留めるっていうのも大事。打てるところに投げてくれるのなんてそうそうないんだから。はいどうぞ、というボールが来るわけじゃない。そこはそういう打順なんでね」。指揮官が求めるものも、走者をかえす打撃。虎の柱として、もっともっと暴れて欲しい願いがあった。

22日巨人戦(東京ドーム)の試合前には、三塁エキサイトシートに座る虎党に、キャッチボールで使用したボールをプレゼント。周辺では拍手が起こり、ボールをもらった少年も笑顔だった。勝負には厳しく、子どもには優しく-。そんなプロ野球選手としてが頼もしい。プロ5年目。体も心も大きくし、虎の先頭に立つ。

大山が打点を挙げれば、引き分けを挟んで昨季から19連勝だった「不敗神話」がストップした。「先制すれば16連勝」、「先発21戦連続5回以上」に続く3日連続の神話崩壊で3連敗。ただ、主砲が波に乗ってきたことも事実。仕切り直し、また、「チームの勝利のため」の一打を放つ。【中野椋】

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