東京オリンピック(五輪)を前に、剛腕が日本記録の箔(はく)を付けた。西武平良海馬投手(21)が、「日本生命セ・パ交流戦」のDeNA3回戦で9回に登板し、1安打無失点で5セーブ目を挙げた。これで開幕31試合連続無失点となり、16年中日田島のプロ野球記録に並んだ。最速160キロの直球を持ちながら、今季は変化球中心のスタイルで防御率0・00。侍ジャパン初選出が濃厚で、沖縄出身では初の金メダルも視界に入れた。

   ◇   ◇   ◇

平良の13球に、固唾(かたず)をのんだ。2点差の9回マウンド。先頭関根をチェンジアップで左飛に打ち取り、続く桑原に左前打を打たれても動じない。伊藤は154キロの直球を2球続け追い込んだ。外角低めにスライダーを見せてから、真ん中へのカットボールでバットを誘う。二ゴロ併殺打に打ち取り、31試合目の「0」を刻んだ。日本タイ記録の記念球。ベンチでベテラン左腕に手渡した。

大記録にも気負うことなく「いつも通り」という投球内容。物おじしない度胸に加え、物には無頓着な性格が随所に行動に表れる。「僕はボール集めてないので大丈夫。初勝利のボールもどこ行ったか分からない。すぐなくすと思うので大丈夫です」。メットライフドーム初勝利を挙げた移籍3年目の内海に渡した。記録は二の次。0に抑えることと、底知れぬ伸びしろにしか興味がない。

18歳まで育った沖縄・石垣島で「0」が並んだ契約書にサインした。17年ドラフト4位で入団し、契約金4000万円で契約。すぐに育ててくれた母に預けようとしたが、断られた。「僕になんかあったときに使えるからって、契約金を受け取ってくれなかった。今どこにあるかも分からない」と手つかずのまま。自腹をはたいた70万円のポータブルトラッキングシステム「ラプソード」をブルペンで愛用する。19年オフの優勝旅行にも同行せず、元同僚で先輩・菊池雄星(現マリナーズ)と自主トレするために渡米。飽くなき探求心が、21歳にして日本記録を生み出す原動力となっている。

頭角を現したのは2年前の19年。新人王を獲得した昨季、そして今季無双の活躍に、自然と侍ジャパンが現実味を帯びてくる。東京五輪のリストに名を連ね、選出の可能性は極めて高い。金メダル獲得なら、沖縄出身として初めての快挙となる。身長173センチにして体重100キロという巨漢から、クイック投法で最速160キロを繰り出す破壊力。大記録を前にして「もし抑えたら、花をもらえると聞いたので意識しました」と言ってのける愛されるキャラクター。あらゆるところに、平良の魅力が詰まっている。【栗田成芳】

西武辻監督(日本記録に並んだ平良に)「0点できているんだからいけるとこまでいけばいいし。でも、それでプレッシャーかけないでね。勝ちに結びつく投球をしてもらいたいと思います」

平良海馬(たいら・かいま)

◆生まれ 1999年(平11)11月15日、沖縄県。

◆経歴 沖縄・八重山商工から17年ドラフト4位で西武入団。高3夏は1回戦敗退。

◆最速 高校時代は151キロ。プロ1年目は2軍で156キロ、2年目に158キロ、20年7月19日楽天戦ロメロの打席で160キロを記録。160キロ台は日本人6人目。

◆鋼の筋肉 高校時代から取り組みベンチプレス130キロ持ち上げる。体重はプロ入り後10キロ増。

◆幸運のクワガタ 19年7月に新しくなった若獅子寮に引っ越した際、部屋に入ってきたコクワガタを飼育。同時に1軍抜てき。シーズン終盤に自然に帰した。

◆愛称 男梅。ノーベル製菓の男梅マスコットに似ていることから。

◆好きな選手 高校時代は「タイプが違うから」と日本ハム金子にあこがれ。

◆好物 焼き肉。「肉だけじゃなくてなんでも食べます」。

◆嫌い 唯一オクラ、納豆などねばねば系は苦手。

◆サイズ 173センチ、100キロ。右投げ左打ち。

◆タイトル 昨季54試合で33ホールドを挙げ新人王に。推定年俸は4200万円。