「キナ」の前には「チカ」が輝いた。阪神近本光司外野手(26)が、“柳の呪縛”を打ち破る先制打で打線を勇気づけた。

0-0の3回。梅野の死球、秋山の犠打で1死二塁。142キロ直球の直後、柳の130キロチェンジアップにも崩されない。右翼へ適時二塁打を放ち、二塁ベース上でクールに左手を上げた。「梅野さんが出て、秋山さんが送って、しっかりした形で点を取れたのが、チームとしても良い流れができた」。

中日先発の柳とは試合前まで今季0勝1敗、17イニングで無得点で、近本も7打数無安打と抑え込まれていた。「前回やられていますし、なんとしても打つっていう気持ちを持ちながら、しっかり冷静に対応できた」。心は熱く、頭は冷静に。プロ3年目。チャンスにもぶれないメンタルで、得点圏打率3割5厘と勝負強さも兼ね備える。

5回には再び柳から中前打を放ち、今季48度目のマルチ安打。後半戦は123打数46安打、打率3割7分4厘で失速の気配は見えない。146安打はリーグトップ。同時に、打率3割1分3厘も首位打者を走るDeNA桑原の3割1分8厘に迫る。好調の要因は「それはよく分かんないですね」とニッコリ。打っても打たなくても、一喜一憂しない。1番打者の仕事を全うした先に、最多安打&首位打者の2冠も見えてくる。

9回の木浪の決勝犠飛にはベンチで喜んだ。ともに社会人経由で18年ドラフトの同学年。新人イヤーから1軍でプレーし、切磋琢磨(せっさたくま)してきた仲だ。この日もベンチに帰ってきた木浪にすぐさま声をかけた。同期が決めた劇勝にも、試合後は冷静だ。

「しっかりピッチャーに対して打つだけ。1勝を積み重ねていきたい」。気持ちはすでに、真っさらなバッターボックスに向かっていた。【中野椋】